洋楽好きの音盤銘盤

やっぱり洋楽は60年代が格好良い

【音盤銘盤】『S.F.ソロウ』 (Pretty things) '68

史上初の「ロック・オペラ」となるプリティー・シングスの出世作と言えるアルバム。当時のサイケデリック指向がよく表れている大作。

The Pretty things S.F.ソロウ

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従来はシングル曲の寄せ集めに過ぎなかったアルバムを60年代中盤に「コンセプトアルバム」と呼ばれる形で捉え直して一定のテーマに沿ってオリジナル曲を展開する手法を開拓したのは前にもこのブログで述べた。そして、サイケデリックブームが到来してからその発展的な形態として、全曲通してストーリーが繋がっている「ロック・オペラ」なる試みを行うグループが現れるようになった。

ロック・オペラというとThe whoの『Tommy』やThe kinksの『Arthur』が有名であるが、今回取り上げるPretty thingsの『S.F.Sorrow』がその嚆矢となる。そういった点でもっと評価されて欲しいアルバムである。

当時の制作のいきさつを述べると、Wally Waller(本作制作時のドラマー)によれば、メンバー間でのミーティングの最中に"全曲、ストーリーの繋がっている内容にしたらどうか?"と提案し、それに賛同したPhil Mayがある孤独な男の一生という物語を考え、それに合わせてそれぞれの楽曲が作り上げられていったとのことである。Philは"当時のアルバムといえば、どれもこれも10くらいの曲が入っていて、その中にシングル曲を収めなければならなかった。40分の曲が一曲だけ入ったアルバムが、なぜクラシックで認められて、ロックはポップスでは駄目なのか、って思っていた。それでオペラから影響を受けて、長い曲で構成されたアルバムを作ってみたってわけさ。"

"S.F. Sorrow Is Born" サイケデリックムーブメントの時代を反映した幻想的な曲調のオープニング。

"She Says Good Morning" Dickのファズトーンの歪んだギターとPhilの呻くようなヴォーカルスタイルは70年代のハードロックへと繋がる先進性を持っている。

"Defecting Grey" アルバム発売に先駆けて発売されたシングル。幻想的な曲調から突如ハードロック風の尖ったリズムに変わったりと目まぐるしい展開の曲。もしかしてQueenの"Bohemian Rhapsody"もこの影響を受けたのではないか?と思わせる、極めて革新的な音楽である。

"Alexander" 当時Pretty thingsとは別名義でリリースされた曲。"Electric banana"という名前で出していた事もある。

この『S.F.Sorrow』というアルバム、その内容の革新性ゆえに当時のレーベルであるEMIも発売に難色を示し、リリースが延期されてしまうという不運に見舞われてしまった。お陰でサイケデリック・ブームが下火になった頃に発売される事になり、本来後発であるはずの『Tommy』の後塵を拝すような印象を与えてしまったのは非常にもったいない事であった。近年、再結成されて"RESURRECTION"という名で本作を演奏したライヴ盤をリリースして再評価されている事は嬉しい限りである。ようやく正当な評価を受けられるようになったアルバムといえる。