洋楽好きの音盤銘盤

やっぱり洋楽は60年代が格好良い

【音盤銘盤】『パスト・マスターズ』(The Beatles)

オリジナルアルバム未収録のシングル曲を集めた編集盤。このアルバムとオリジナルアルバムを揃えると、ビートルズが公式に発表した曲をほぼコンプリートする事ができる。


パスト・マスターズ vol.1&2パスト・マスターズ vol.1&2
(2009/09/09)
ザ・ビートルズ

商品詳細を見る

ビートルズはファンに「二度買い」をさせる事を良しとしないこだわりがあった事はわりと有名なことである。同じ曲をシングルとアルバムの両方に収録させてファンに対して無駄に曲を買わせるのは、酷なことだと考えていたのが想像できる。それに同じ曲をアルバムに収録するくらいなら、新しい曲を作って発表した方が己の創作意欲を満たせるし、印税収入も増やせるという思惑もあった筈である。

一見もっともに考えられる「重複回避」のルールであるが、後年になって曲を聴く為にCDを買い揃える立場からするとちょっと面倒な事になる。オリジナルアルバムはCD化されたものの、当時シングル盤として発売された曲はしばらく手つかずのままになってしまっていたのである。シングル盤にはビートルズとしてはもちろん、ロックの歴史の中でも極めて代表的な曲も多数あるので、これをうまく編集して発表できるようにしなくてはならなくなった。そこで出てきたのがこの「パスト・マスターズ」である。当時シングル盤として発売された曲を網羅した形で発売されることとなった。

デビュー当初の飛ぶ鳥を落とす勢いが分かる"From Me To You","She Loves You","I Want To Hold Your Hand"を聴くと、彼らが如何に同世代の中で群を抜いた存在だったかが分かる。

ちなみに"She Loves You","I Want To Hold Your Hand"はドイツ語盤も収録されており、聴き比べてみるのも一興である。デビュー前にドイツのハンブルグで活動していた時期もあるのでその恩返しという意味合いで収録されたものである。

Paulの絶叫に近い熱唱が聴ける"Long Tall Sally","She's a Woman","I'm Down"は初期のピークと言える。R&Bがベースになっている曲だが、黒人ぽい渋くて重たい雰囲気にならず、軽快に歌い上げている所が彼ららしい。オープニングの歪んだギターが特徴的な"I Feel Fine"も捨てがたい。後の時代の実験的な作風につながっている。

ラバー・ソウル」と同時期にリリースの"Day Tripper","We Can Work It Out"といい、「リボルバー」と同時期リリースの"Paperback Writer","Rain"は見事としか言いようがない。アルバムで大層なクオリティの曲を発表しながら、シングルでこれだけ完成度の高い曲を出しているのだから。A面B面ともに手を抜かず、ともに名曲といえる曲を作れる所は、やはり天才的である。

ここから後半。サイケデリックの時代を経て再びシンプルなロックに回帰した"Lady Madonna","Revolution"、そしてシングルとしては異例の長さ(7分)を誇る曲"Hey Jude"はロック史の名曲。

Johnの絞り上げるような歌い方が印象的な"Don't Let Me Down"は後半のハイライトである。

「パスト・マスターズ」の曲を取り上げてみると、単にシングルの編集盤として価値があるのは勿論だが、オリジナルアルバム一枚一枚を聴いていると見えづらいビートルズの「通史」のようなものが分かるのが、利点である。彼らの歩みが2枚組の編集盤としてまとめられているのは、なかなかの優れものと言えるだろう。