洋楽好きの音盤銘盤

やっぱり洋楽は60年代が格好良い

【音盤銘盤】『キンク・コントラヴァーシー』(The Kinks) '65

Kinksの3rdアルバム。R&Bカヴァー、スリー・コードのギターフレーズ、内省的なフォーク、シニカルな視点の歌詞に彼らの変貌ぶりが分かる作品。


キンク・コントラヴァーシー(+4)キンク・コントラヴァーシー(+4)
(1998/06/24)
ザ・キンクス

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このアルバムがリリースされたのは65年の後半、Beatlesが革新的な音楽を次々と世に送り出し、Stonesがオリジナル曲に目覚めつつあった頃のである。Kinksも同世代のグループの影響を受けていたのは想像に難くない。彼らもカヴァー曲に頼らず多彩なオリジナル曲を産み出していくことになる。その過程がこのアルバムによく表現されている。僅か12曲だが、非常に多彩な側面を持った曲が並んでいる。後のKinksの方向性を決定付ける様な曲もあり、彼らの成長ぶりを示した資料としても評価できるアルバムである。個人的にはパイ・レーベル期のKinksのアルバムの中でも一番好きな部類に入る。

"Milk cow blues" オープニングを飾る曲。彼らのR&Bカヴァーのなかでも出色の出来。当時のライブの定番曲でもあった。RayとDaveが交互にリードヴォーカルを取るところにKinksのアレンジ力の高さが表れている。終盤でギターを搔き鳴らしながら盛り上がっていくノリは堪らない。当時の同年代のバンドでこれだけスピード感のある演奏をしていたのは殆どいないのではなかろうか。

"Ring the bells" 1曲前の"Milk cow blues"と対照的にアコースティックギターとRayの気怠いヴォーカルが「緊張」と「緩和」の妙を生んでいる。音楽性のレンジの広さでは同世代のバンドで随一。

"Gotta Get the First Plane Home","When I See That Girl of Mine" 1stアルバムの流れを汲むオーソドックスなR&Rナンバー。若々しさはこのアルバムでも健在。

"I Am Free" Daveがリード・ヴォーカルのフォーク・ロック調のゆったりした曲。歌詞も従来の恋愛をテーマにしたものから「自由」といった抽象的なものに変わりつつあるのが分かる。BeatlesBob Dylanの影響は徐々にこういった所から表れているのかもしれぬ。どことなく曲調がBeatlesの"Help!"に収録された「悲しみはぶっとばせ」に似ているのはご愛嬌?

"Till The End Of The Day" 久々にスリー・コードギターの登場。初期から70年代のライヴでは定番曲であった。"You Really Got Me","All Day And All Of The Night"と並んで3大スリー・コード曲である。この3曲は21世紀の現代でもギター・フレーズの定番曲として語り継がれ、そして弾き継がれるべき曲だと思う。

"The World Keeps Going Round" 曲調はスリー・コードのオーソドックスなものだが、全体的によりヘビーで重苦しいサウンドに仕上がっている。歌詞の方も「君には止めることはできない。世界は回り続ける。」「君は圧倒的な孤独を感じている。それでも世界は回り続ける。」などと随分達観したRayの視点が出始める。シニカルな視点の曲作りを始めたのがわかる。有名曲に埋もれてしまっているが、もっと評価されても良い。

"I'm on an island" Kinks特有の、というよりRay特有の「孤独感」「社会不適応感」が表れた曲。後のコンセプト・アルバム時代の萌芽が見え始めるのがこの時代からである。Rayのフニャッとした何ともふざけたような歌い方とシリアスな歌詞のミスマッチがグループの魅力となっていくのだが、その中でも一番初期の曲がこれ。

"Where have all the good times gone" この曲も社会諷刺をテーマにした曲。「あの良き時代はどこへ行ってしまったのだろう?」という歌詞は、Stonesの"Time is on my side"を意識したフシもあり、興味深い。パンク全盛期の頃のライヴでも取り上げていたので、かなりのお気に入りであったと見受けられる。斜陽、黄昏といった言葉が似合う曲だが、初期のスリー・コードギターと歌詞のなんともくたびれた感じのミスマッチがキンクスの真骨頂。初期の隠れた名曲。

"It's too late","What's in store for me","You can't win" 3rdアルバムラストはキンキーサウンド総仕上げ。しかし歌詞には脳天気さは消えつつある。「もう遅すぎる」「自分に何が起ころうとしているのか知りたい」「君は勝てない」とシリアスなRayのメッセージを垣間見る事ができる。考えてみれば彼らは20才前後の若者である。バンドで途端に売れたものの、急激な周囲の変化に戸惑っている感がよく見える。

Kinksの個性はそういった混乱や苦悩をありのままに、かつ客観的に歌詞にして歌い上げたことである。このアルバムを筆者が初めて聴いたのは高校1年頃の事だが、その当時の自分の思い悩んでいる状況とこのアルバムの歌詞とが随分リンクしている様な気がして、随分親近感を持ったものである。このアルバムを60年代のKinksのアルバムの中でも上位にあげているのはそのせいもあるかもしれない。