洋楽好きの音盤銘盤

やっぱり洋楽は60年代が格好良い

【音盤銘盤】『フェイス・トゥ・フェイス』(The Kinks) '66

Kinks4作目のアルバム。本格的にコンセプト・アルバムの時代に突入する事になる。


フェイス・トゥ・フェイス+7フェイス・トゥ・フェイス+7
(2009/03/04)
ザ・キンクス

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今でこそ1つのアルバムを1つの一貫したテーマに基づいて制作する、という方法はそれ程珍しいものではなくなったが、1960年代当初は極めて画期的な事であった。このアルバムでKinksが(もっと正確に言えばRay Davisが)実現しようとしていた事はまさにそのような事である。当時のアルバムはシングル盤が何枚かリリースされると、それをまとめた上に何曲か埋め草の曲を入れて発売するというのが一般的で、アルバム自体を何らかの表現手段とする発想は殆ど無かった。よってこのアルバムをロックにおいて初めてのコンセプト・アルバムの一つとする音楽評論家もいる。Ray自身は曲間を効果音で繋いで一体化した作品として発表したかったそうだが、レコード会社からの要請でその多くが残念ながらカットされてしまったそう。

"Party Line" キンクスの4作目は電話のベルから始まる。このアルバムではこの手の効果音を多用する。コンセプト・アルバムを本格的に意識している事が伺える。歌詞の内容も当時としては進んでいるのではなかろうか。一昔前の日本で言うとダイヤルQ2、今だと「出会い系」サイトとかスマホのLINEのようなものをポップ・ミュージックのテーマとして取り上げているのだから、Rayの観察眼の鋭さと先見性には頭が下がる思いである。

"Rosy Won't You Please Come Home" ハープシコードを使った名曲。クラシックにも影響を受けたと見受けられる。

"Dandy" 女の子にやたら手が早い男を揶揄した歌。Rayは近年言う所の「非モテ」だったのだろうか?しかし曲終盤のしゃがれたヴォーカルは秀逸。

"To Much On My Mind" これもハープシコードのキラキラした音色が印象的なナンバー。途中から淡々としたドラムがリズムを刻み出すのがアクセント。曲に締まりが出てよろし。

"Session Man" スタジオ・ミュージシャンという裏方仕事を労う逸品。この手の目立たない人々にスポットを当てた曲は後にKinksの専売特許になる。

"Rainy Day In June" いきなり雷鳴が轟いて始まるという何とも強烈なインパクトを与える曲。何だか雨乞いをしているように聞こえるのは私だけだろうか。

"A House In the Country" 久々に軽快なキンキーサウンドが聞ける。歌詞は上流階級の俗物的かつ気儘な日常をしつこく揶揄したもの。でっかいスポーツカーに郊外の大豪邸と金持ちをやっかみ半分に笑い飛ばすように歌っているのがなんだか笑える。労働者階級出身のKinksのメンバー(多くの当時のバンドがそうだが。)にとって鼻持ちならない存在だったに違いない。Pretty Thingsもカヴァーした隠れ傑作。90年代に入るとブラーが「Country house」という曲を出すが、果たしてKinksのこの曲が元ネタなのだろうか?

"Holiday in Waikiki" Kinksの社会風刺路線の中でも最高傑作。波の効果音といい、ハワイアンのリズム感といい完成度が高い。ニューヨーク出身のフラダンサーに砂浜のコカコーラの広告とRayの観察眼冴える名曲。

"Most Exclusive Residence For Sale" "A House In the Country"の後日談と言った所か。成金が散財→豪邸を売り払うという何ともありがちなネタである。この曲を初めて聴いたのは20年程前の事、高校2年の時。当時この曲を聴いて何故か明石家さんまを連想たのだが、そんな飛躍をしたのは私だけだろうか?さんまさんが当時「離婚して家が売れない」と嘆いていたのを思い出す。

"Fancy" Beatles,Stoneともにこの時期はインド音楽に傾倒していたが、Kinksも例外ではなかった。ギターの音色を巧みに歪ませてそれっぽい音楽に仕上げている所がよい。Rayの気怠い歌声もインド音楽にマッチしている。

"Little Miss Queen of Darkness" アメリカのヴォードヴィル調の曲が唐突な感じで入ってくる所が面白い。アメリカのルーツ・ミュージックに対する造詣の深さがわかる曲である。70年代のコンセプト・アルバム時代に繋がる作品と言える。

"You're Lookin Fine"このアルバムでは珍しいシンプルなR&Bナンバー。ケルヴィン・ホールでのライヴ版も要チェック。

"Sunny Afternoon" 出だしからいきなり「税務署から来た奴等が有り金を全部持って行った」と、およそ華やかなポップ・ミュージックからかけ離れた下世話な展開を示す曲。こんな身も蓋もない歌詞の曲が全英1位になったのだから、当時の世相を随分反映していたのかもしれぬ。

"I'll Remember" アルバム最後はオーソドックスなギターポップで終わり。今となっては当たり前だが、本作品はアルバム単位にテーマを持って音楽を構成するという革新的な活動の先駆けとしてもっと評価されて良いと思う。