洋楽好きの音盤銘盤

やっぱり洋楽は60年代が格好良い

【音盤銘盤】『サムシング・エルス』(The Kinks) '67

Kinks5作目のアルバム。スリー・コードの直線的なロックは鳴りを潜め、ピアノやブラスの装飾をあしらった逸品に仕上がっている。


サムシング・エルスサムシング・エルス
(2000/04/21)
ザ・キンクス

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このアルバムが発売された1967年当時はサイケデリック・ムーブメント真っ只中にあり、アメリカの西海岸を中心に華やかな若者文化が花開いた時代であった。世間全般にどこか浮かれた雰囲気があって、ポップスの世界では一種のお祭り騒ぎのような状況にあったのである。Beatlesが「サージェント・ペパーズ」のような傑作を出したり、グレイトフル・デッド、ジェファーソン・エアプレインのようなサイケデリック・ロックが台頭しつつある中で制作されたのが「サムシング・エルス」であった。しかし、このアルバム、同時期にリリースされた多くの傑作アルバムとは明らかに一線を画した雰囲気を漂わせている。ドラッグの影響を受けた煌びやか、かつ混沌とした色合いとは対照的に、なんともこぢんまりとした地味な印象を与える出来に仕上がっている。ピアノやブラスの演奏を随所に散りばめているものの、決して派手な演出ではなく非常に端正な響きを持っている。

Ray自身はインタビューで「当時のサイケデリック・ブームには馴染めなかった。西海岸の流行にイギリスで浮かれているなんて嘘っぽいだろ。」といった趣旨のエピソードを述べていたので、サイケに対して若くして随分懐疑的な姿勢を持っていたのが分かる。いかにも斜に構えて冷めた目線で物を見るRayらしい発言である。その手の発言を反映するかのように、曲調も時代の流行からは逸脱した、というより取り残されたような雰囲気である。しかし、いま聴き直してみると、その世間の流行に飲まれなかった所がこのアルバムの良い所であり、Kinksの傑作として「サムシング・エルス」挙げる人が多いのもうなずける。

"David Watts" アルバムも5枚目になると演奏に磨きがかかってくるのが分かる。この洗練された曲にはスピード感も感じられるようになる。後にThe Jamが"All mod cons"でカヴァーする事に。勉強もスポーツもクラス一の優等生を羨むという学園もののドラマにありそうなネタを歌詞に盛り込んでいる。レイの何処か冷めた視点があるので、軽快な曲に仕上がっている。

"Death of a Clown" Daveの記念すべきソロシングル曲。イントロのピアノが物悲しく響く。その後に来るDaveのしゃがれたヴォーカルも乙である。

"Two Sisters" この曲もピアノのイントロで始まる。途中でギターとハモンドオルガンの軽快なノリに変わるところが好き。歌詞は姉妹の葛藤を歌ったもの。

"No Return" 筆者の知る限り、ほぼ唯一のRayのボサノバ・ナンバーと思われる。気だるいトーンがボソボソした彼の声質とマッチしている。このアルバムの隠れた名曲。

"Harry Rag" 民謡調の何だか古めかしい曲。サイケの真っ只中にありながら、こんな懐古的な曲を作る所がKinksらしい。

"Tin Soldier Man" ブラスの鋭い音が小気味良い小品。コーラスの構成にも一工夫有ってよろし。ところでSmallFacesの名曲"Tin soldier"はこの曲のタイトルをパクったんだろうか?

"Situation Vacant" ピアノのイントロからオルガンとギターのアンサンブルに急展開する所が格好良い。後のJamやBlurに通じる曲調はもっと評価されて良いと思う。

"Love Me Till the Sun Shines" Daveのヴォーカルを全面に出した曲第二弾。BBCのライヴ版の方がとんがった感じがして好き。

"Lazy old sun" Rayのサイケデリックに対する解釈はつくづく個性的なのが分かる。亡霊でも出てきそうなおどろおどろしい感じは癖になる。たまに凄く聴きたくなる。

"Afternoon Tea" 前曲と打って変わってほのぼのしたトーン。地味だが、Kinksのセンスの良さが分かる逸品。

"Funny Face" Daveのリード・ボーカル第三弾。ささやくような歌い方をしたと思ったら、途中から絶叫(?)したりとなかなか慌ただしい展開。初期のスリー・コード時代のギターフレーズもよろし。

"End Of the Season" このアルバムの中では曲調が些か異質なので調べてみると、本来は"Face to Face"の前にリリース予定だったらしい。クラシカルなトーンが心地よい。

"Waterloo Sunset" トリはKinks屈指の名曲中の名曲。世界史を勉強した人なら知っている「ワーテルローの戦い」のワーテルローと同じ語源。シングルヒットを飛ばすバンドとしてのKinksはこの曲で終わりとなる。一時代の終止符を打つに相応しい曲。

ちなみに、曲名のワーテルローはロンドン中心部のワーテルロー橋の事。ビートルズの「ペニーレイン」と並ぶご当地ソング。Rayの気怠いノリにギターをかぶせた感じが凄く良い。ブリティッシュ・ロックの遺産と言っても過言ではないと思うのは私だけではない筈。