洋楽好きの音盤銘盤

やっぱり洋楽は60年代が格好良い

【音盤銘盤】『ライヴ・アット・ケルヴィン・ホール』(The Kinks) '67

Kinks初のライヴ・アルバム。スコットランド・ツアー中のケルヴィン・ホールでの収録。


ライヴ・アット・ケルヴィン・ホールライヴ・アット・ケルヴィン・ホール
(2009/03/04)
ザ・キンクス

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スコットランドグラスゴーのケルヴィン・ホールで1967年4月1日に行われたライヴという事になっているが、収録日については諸説あるようである。"You Really Got Me"の直前に観客が"Happy Birthday"を歌っているのだが、メンバーの中には4月生まれの者はいない為である。

●メンバーの誕生日

Ray Davies(1944/06/21)

Dave Davies(1947/02/03)

Peter Quaife(1943/12/31)

Mick Avory(1944/02/15)

----「『ザ・キンクス ひねくれ者たちの肖像』 著者/ジョニー・ローガン 訳者/野間けい子 出版社/大栄出版」より引用

ちなみに当時のシングル・アルバムのリリース状況は以下の通り。

シングル『サニー・アフタヌーン』1966/06/03(UK)

アルバム『フェイス・トゥ・フェイス』1966/10/28

シングル『ウォータールー・サンセット』1967/05/05

アルバム『ライヴ・アット・ケルヴィン・ホール』1967/08(US)

---wikipedia調べ

『サニー・アフタヌーン』で観客の大合唱が沸き起こる所から思うに、Rayの誕生日近辺の66年6月の録音と一瞬考えたのだが、"You're Looking Fine","Dandy"といった『フェイス・トゥ・フェイス』の曲も収録されているので、10月以降でないと辻褄が合わない。そうなってくるとPeterの誕生日66年12月かDave,Mickの誕生日67年2月頃のいずれかが妥当と思える。

Rayは1963年12月31日のギグをKinksがプロ・デビューした日としているそう(第2章)なので(これも『ザ・キンクス ひねくれ者たちの肖像』から)、66年12月が一見妥当に見える。しかし、当時のKinksはマネージャーとバンドの契約面で裁判沙汰に巻き込まれていて、67年のはじめまで活動がままならなかったという記述(第7章)も同書にある。その為、もっと有効な情報は無いかと思い、もう一冊自宅の本棚から本を引っ張りだしてみる。

「『エックス・レイ』 著者/レイ・デイヴィス 訳者/赤塚四朗 出版社/TOKYO FM出版」を繙いてみると、第17章の始めの方に「二月四日、キンクスはストークでコンサートを開き、」とある。ちなみにストークはイギリスのバーミンガムマンチェスターの中間辺りにある都市である。方向としてはスコットランドの途上にある。ううむ、どうやらこの辺があやしいのではないだろうか。『エックス・レイ』はRayによる小説の体裁をとった自伝であり、本人の記憶違いの可能性も含めたとしてもかなり信憑性の高い情報なのではなかろうか。個人的には67年の2月が妥当な所と推測する。

さて、アルバムの内容であるが、はっきり言って音質は極めて劣悪である。同時期に発売されたStonesの"Got Live If You Want It!"と比べてもひどい。公式版としてリリースするのが現代の感覚からしてむちゃくちゃなレベルである。しかし、それでも純粋な意味で「ライヴ感」というものを表現しているのは一度でも聴いてみれば分かる所である。例えば、オープニングの"Till The End of The Day"にしろ、終盤の"You Really Got Me"にしろこんなに「生き生きと」演奏されている曲を聴いたことは無い。そして"Sunny Afternoon"のRayと観客によるコール&レスポンスの掛け合い、この一体感は何にも代え難い。ラストのメドレーもぶっ飛んでいる。"Milk Cow Blues"〜"Batman Theme"〜"Tired Waiting For You"そして再び"Milk Cow Blues"で終わる一連のスピード感は21世紀の現在聞き直しても新鮮さを失っていない事が凄い。音質の悪さどこ知らずといった感じで耳に焼き付くように残るインパクトである。

このライヴ・アルバム、本質は音の善し悪し云々でなく、60年代のライヴの熱気を永久保存したドキュメンタリーと捉えれば一級品の作品なのではないかと思う。こんな貴重な遺産が安い価格で未だに手に入るのだから、若い人にも是非聴いてもらいたい逸品である。