洋楽好きの音盤銘盤

やっぱり洋楽は60年代が格好良い

【音盤銘盤】『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』(The Kinks) '68

Kinksの永いキャリアにおいてターニングポイントになった重要作品。一部のマニア絶賛の「コンセプト・アルバム」時代の幕開けである。


ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ+13ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ+13
(2010/11/24)
ザ・キンクス

商品詳細を見る

Kinks、特にグループのリーダーであるRay Daviesは1966年リリースの”Face to face”辺りから「コンセプト・アルバム」という概念のもとに、1つのアルバムの中で一貫したテーマを追う作品を展開していた。そして本作において本格的に「コンセプト・アルバム」時代に突入する。イギリスの田舎暮らしと旧き良き時代をノスタルジックに描くアルバムを創り上げることとなった。しかし、このアルバムがリリースされた当時はサイケデリック・ムーヴメントが花盛りであり、ブルース・ロック、ハード・ロックなどが台頭しつつあった時代であった為、残念ながら商業的にはパッとしないものになってしまった。21世紀の今現在振り返ってみると、「村の緑を守ろう」というテーマは環境保全とか自然環境への回帰という”エコロジー”な思想を持っており、Kinks、ひいてはRayが非常に先見性のある人物であることが分かるのだが、当時の世相や風潮から見ると余りに「時代の先を行き過ぎた」感が否めなかったのである。現在ではKinksの名作として再評価が進んでおり、ようやく正当な扱いがされるようになったのはファンとして嬉しい限りである。

"The Village Green Preservation Society" このアルバムのテーマ曲とも言える曲である。のどかなテンポで流れるフォーク調の曲。デビュー当初のスリー・コードのロックから随分かけ離れた所に来たのが分かる曲調である。歌詞も「村の緑を守ろう」とか「旧き良き時代の生活に戻ろう」といった懐古的な雰囲気が一杯。今聴くと癒されるが、やはり当時流行の中ではいささか退屈だったに違いない。

"Do You Remember Walter?" 仲間の行く末に思いを馳せる逸品。旧知の友達が今何やっているかとか自分も思い出してしまう。

”Picture Book” 邦題だと「絵本」となっているが、歌詞の内容はアルバム(写真帳)の事を歌ったもの。自分や家族の若かりし頃を叙情的に描いている。

"Johnny Thunder" 村の一匹狼、ジョニー・サンダーをテーマにした曲。バイクで突っ走るこのキャラクターは後のアルバムでも再び登場する事となる。キラキラとした音色のギターはフォーク・ロックの影響大。

"Last of the Steam-Powered Trains" 村を走る蒸気機関車が主人公の曲。おそらくRay自身がポップ・ミュージック界での立ち位置と照らし合わせて、時代風潮になじめない感覚をこの曲に託したのではないかと思われる。作曲家だけでなく作詞家としての才能が垣間見える大作である。途中からR&B調のリズミカルなテンポに変わっていく所が聴き所でしょうか。

"Big Sky" KinksはThe Whoと比べて「宗教」や「神」といったものをテーマに取り扱う事は少ないのだが、この曲はそれに準じた存在を主題に置いている。「大空」を人間より大きな存在として象徴的に比喩している所が興味深い。フォーク・ギターの明るい音色とブルース調の引きずる様なリズムのギターのアンサンブルが絶妙な隠れた名曲である。

"Sitting by the Riverside" 「ヴィレッジ・グリーン〜」の真骨頂とも言うべき作品。川辺に座ってくつろぐシーンが目に浮かぶ。

"Animal Farm" このアルバムの自然派指向がうかがえる曲。ジョージ・オーウェル作の小説のタイトルと共通するが、Rayがこの小説の影響を受けたかどうかは定かでない。

"Village Green" Kinksのメンバーは全員ロンドンの郊外の生まれであるが、この曲で歌われている情景はイギリス人が持つ「懐かしの田舎」を表現したものと思われる。ハープシコードの高い音色とラッパの枯れた音が絶妙な曲である。日本人にも受けそうな叙情的なメロディの為か日本ではシングル・カットもされた所が興味深い。

"Starstruck" Rayがショー・ビジネスの端くれにいる人物であることが分かるなんとも渋い曲。有名人に浮かれている人たちを冷めた目で見ながらも、優しい視点も忘れずに歌詞にしている所がRayらしい。この曲のテーマである「有名人を取り巻く馬鹿らしさ加減」は70年代に入ってからのコンセプト・アルバムでも一貫して取り上げられていく事になる。

"Phenomenal Cat" 猫の鳴き声らしき裏声(?)をバック・コーラスに押し出した幻想的な曲。このアルバムでは様々なキャラクターが登場するお伽話の様である。

”All of My Friends Were There” バンドで売れてからかつての地元の仲間に会うと、どこか気恥ずかしさを感じてしまうようである。そんな心情を描いた曲。

"Wicked Annabella" このアルバムでは異色のサイケデリック調のナンバー。怪奇もの、オカルトものも物語の定番である。

”Monica” ラテン系のリズム感がアクセントの曲。このアルバムは曲数が多いので、ちょっとしたインパクトが必要と考えて入れられたのだろうか。ヴィレッジ・グリーンののどかなテーマから少々ずれた所が面白い。

"People Take Pictures of Each Other" 「互いに写真を撮りあう。本当に相手が存在する事を確かめる為に。」というこの曲のテーマは家族や仲間のあり方を問うている大事な観点である。のどかなダンス・パーティー風の曲調とあいまって微笑ましくアルバムのエンディングとなる。

このアルバムを境に、シングル・カットされてヒット・チャートを賑わす様な曲は殆ど鳴りを潜めてしまうことになる。70年代中盤辺りまでKinksはいわゆるヒット曲とは無縁の時代に入るのであるが、これはグループのリーダであるRay自身が文字通り「取り憑かれたかの様に」コンセプト・アルバム制作にのめり込んでしまった面が大きい。商業的には同世代のRolling StonesやThe Who、後発のハードロック系のグループに大きく水をあけられてしまったのは否めないが、この時代のKinksのアルバムは現在振り返って聴き直してみると、Ray Davies御大が大事なメッセージを伝えてくれていたのが分かると思う。筆者は高校2年の頃に初めてこのアルバムを聴いたが、丁度その頃からKinks、殊に60年代後半〜70年代にかけてのコンセプト・アルバム時代の再評価の機運が高まっていたと記憶している。このアルバムはRay Daviesがいかに先見の明のあるミュージシャンであるかが理解できる傑作である。