洋楽好きの音盤銘盤

やっぱり洋楽は60年代が格好良い

【音盤銘盤】『マイ・ジェネレーション』(The Who) '65

The Rolling Stones,The Kinksと続いて4大ブリティッシュ・ロックグループとして最後にThe Whoを取り上げよう。

1stアルバムにして彼らの代表曲"My Generation"が収録されている。

UKオリジナル


マイ・ジェネレーション(デラックス・エディション)マイ・ジェネレーション  
(2002/09/11)
ザ・フー

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US編集盤


Sings My GenerationSings My Generation
(2005/07/26)
Who

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このThe Whoの1stアルバム、かれこれ10年程前まではイギリスオリジナル仕様のアルバムは日本ではほぼ流通しておらず、US編集盤が長らくCDとして出回っていた経緯があった。高校2年当時(1994年)私が購入した1stも当然US盤である。オリジナルのUK盤が日本でようやく発売されたのは2002年、私が社会人になって3年程経ってからのことである。60年代当初の楽曲の権利関係が複雑に入り組んでいたせいで、21世紀になってようやくオリジナル盤が復刻される事態になったのはThe Whoの評価をする上でかなりマイナスであったと思っている。もう少し早く、80年代にCD化されていれば、もっと正当な評価と知名度を日本でも得る事ができたのではないかという気がして残念でならない。メンバーの来日も2004年になってから実現したのも、同じく「遅きに失した」感が否めない。グループの活動がピークに達して、かつオリジナルメンバー全員が存命のうちに武道館や後楽園球場でライブをやっていたらThe Whoはもっと高く評価されていたんじゃないかと思うのは、決して私だけではないと思う。

と、グループの評価はさておきこの1stアルバム、傑作であるのは間違いない。代表曲"My Generation"が入っているのは勿論だが、それ以外の曲も彼らのパワフルかつ軽快な演奏が聴けて何よりである。めぼしい曲をピックアップしてみる。

Kinks同様、1stからグループのリーダー格であるPete Townshendによるオリジナル曲が多いのが特徴である。

"Out in the Street" ダンス・ミュージック風の軽快なサウンドとリズムでこのアルバムは始まる。The Whoの特徴としてドラムのKeith Moonによるハードな、それこそドラム・キットをたたき壊さんばかりの過激なリズムの刻み方があるが、多くの曲では軽快なスティックさばきを聴かせる。この曲のリズムも同様である。同世代のRollingStonesやKinks,Yardbirdsに比べるとR&B特有の渋く、重苦しい雰囲気は薄い所がThe Whoのセンスである。

"I Don't Mind" James Brownのカヴァー曲。この曲を含めてこのアルバムのカバー曲は3曲のみ。The Whoは当時としてはオリジナル指向の強いグループであったと言える。ヴォーカルのRoger Daltreyが敢えてどもる様な感じで歌っている所が面白い。Rogerの声の張り方は甲高く、遠くまで通るタイプでブルースをやってもどこか軽やかなのはThe Whoらしい。

"The Good's Gone" ギターのPete Townshendはグループの多くの曲で作詞作曲を務め、数多くの名曲を創った。ギタリストとしても優れた演奏を残している。この曲では初期のストレートで澄んだ音色のギターを聴く事ができる逸品。

"La-La-La Lies","Much Too Much" The Whoのもう一つの特徴に秀逸なコーラス・ワークがある。これらの2曲で見られる様な裏声を多用したバック・コーラスは初期のThe Whoでは他に類を見ない程優れている。アメリカのBeach Boys風のファルセットのお陰で、R&Bをやっても決して黒っぽい、重苦しい雰囲気にならないのは彼らの個性である。

"My Generation" このアルバムの代表曲であり、The Whoの歴史の中でも傑作中の傑作と言える曲。畳み掛けるリズムとヴォーカルで始まるこの曲、若者の性急な感じがよく表現されている。

歌詞の「老いぼれる前に死んでやる。」はロックの名言中の名言と言える。サビの部分でベースのJohn Entwistleが華麗な指さばきを聴かせる所は緊張感がみなぎっていていつ聴いてもドキドキする。そして、曲後半のKeithによるなぎ倒さんばかりのドラムはこの曲のハイライト。

”The Kids are Alright” "My Generation"と並んでこのアルバムの名曲と言えるのがこの曲。デビュー当初のThe Whoは主にmodsと呼ばれるような、ダンスに明け暮れる若者層に支持されていたがそういった輩の心情なんかをテーマにした曲。相変わらずこの曲でのドラムのインパクトは強烈である。こんなにスピード感のあるドラムによるリズムを聴いた事は無い。

"It's Not True" コーラスとドラムのスピード感が巧くミックスされた初期の隠れた名曲。中盤のPeteによるファズ・トーンによる歪んだギターは70年代以降のハードロック、ヘヴィメタの萌芽が見て取れる。この点はもっと評価されても良い気がする。

"A Legal Matter" Peteの澄んだ、粒の揃った音色のギターと、鼻にかかるようなヴォーカルが特徴の曲。Rogerとは対照的なPeteのこもった感じの歌声も個人的には好きである。

"The Ox" このアルバム唯一のインストゥルメンタルである。Peteのギター、Keithのドラム、Johnのベースと3人の見せ場がきちんと生かせる作りになっている所が格好良い。70年代以降のハードロックを先取りした感があるのはこの曲の特徴。オーソドックスなラブソングやメッセージ性の強い曲だけでなく、「聴かせる」演奏も盛り込んだ仕上がりにしているのは、当時のレコード会社やプロデューサーによる手腕も大きいのではないか。この点はもっと注目されて良いと思う。

”Circles” Johnによるホルンの演奏がアクセントとなる逸品。彼のベース以外の多彩な演奏力もまた、もっと評価されてしかるべきである。曲名のごとく弧を描く様に巡るリズム感は一度聴くと病みつきになる。

The Whoはモッズ,サイケ,ハードロック,パンクと時代の流行に対して常に敏感に反応し続けたグループである。良くも悪くも時代の流れに真っ正面から向き合って活動を続けたグループであるが、その原点がこのアルバムに盛り込まれている。日本でも多くの人に聴いてもらいたい1枚である。