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【音盤銘盤】『ア・クイック・ワン』(The Who) '66

The whoの2ndアルバム。メンバー4人全員が自作曲を提供したり、後の"Tommy"につながる組曲"A Quick One"を収録するなど、新しい試みが散見されるのが特徴である。


ア・クイック・ワン+10ア・クイック・ワン+10
(2011/10/12)
ザ・フー

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"My generation"のヒットに次いで発表される事になったアルバムである。カヴァー曲は1曲のみとなり、Pete以外のメンバーも最低1曲は作曲するといったように、新たな試みが取り入れられている。これは恐らくBeatlesの影響が大きい。

”Run Run Run” このアルバムは前作に比べて、ギターのリズムがハードになり、ファズ・トーンを多用してサイケデリック、かつ幻想的な雰囲気も見られるのが目立つ所。この曲には特にその傾向が顕著に表れている。時代の流行には目ざとく追っかけていくのが彼ららしい。

"Boris the Spider" Pete以外のメンバーが作曲する試みの中で、恐らく最も成功したのはベーシストのJohn Entwistleであろう。彼のオリジナル曲の中で、後年に渡って代表曲となるのがこれ。邦題の「ボリスのくも野郎」も何だか粋な感じである。この当時の日本のレコード会社はなかなかいいネーミングセンスをしている。語感がお笑い芸人、有吉弘行氏のあだ名の付け方に似ている感じがしてクスッと笑ってしまう。「おしゃべりクソ野郎」と「ボリスのくも野郎」、並べてみるとちょっと面白い。ベースの重苦しいリズムとJohnの低くて不気味なトーンのボーカルが相まって、異様な世界観が出来上がっている。クリアな曲調がThe Whoの楽曲には多いが、この曲だけは明らかに異彩を放っているのがアクセントである。

"I Need You" Keith Moonの数少ない貴重なオリジナル曲。ヴォーカルもKeithによる。ドラムの叩きつけるようなリズムが全面に出ていて、ユニークである。軽快なノリはKeithのドラムが要であるのがわかる一曲。

"Whiskey Man" Johnの2曲目。彼はPeteに次ぐ作曲センスがある事が分かり、今後のアルバムでも1〜2曲程度John作の曲が収録される事になる。彼のソングライターとしての才能はもっと高く評価されても良いと思っている。ベーシストとしてだけでない彼の一面がよく表れている作品である。この曲でホルンを演奏しているのも、Johnである。

"Heatwave" このアルバム唯一のカヴァー曲。ファルセットのコーラスが印象的である。この手の軽快なナンバーを演奏させるとThe whoの右に出る者はいない、と言ったら言い過ぎだろうか?それほどこのカヴァーは秀逸。70年代後半のパンク/ニューウェーブの時代になると、The Jamもこの曲のカヴァーを発表しているが、多分にThe whoの影響を受けているのがわかるアレンジをしている。

"Cobwebs and Strange" Keithによる2曲目。一応インストゥルメンタルという体裁をとってはいるが、これは果たして曲なのか?若干疑問が残る仕上がりである。しかし、Keithの無邪気な、どこか突飛な人柄が表れていて興味津々である。ライブでドラムセットに発煙筒を仕込んだり、自宅やホテルの家財道具を破壊しまくる等、奇行が目立つ事で当時は有名だったので、この曲のぶっ飛んだドラムさばきも許容範囲だったのかもしれない。

"Don't Look Away" 当時の流行であったフォーク・ロック調の曲。澄み切ったトーンのコーラスは当時のグループの中でも群を抜いている。

"See My Way" ヴォーカルのRogerによる曲。シンプルなリズムが心地よい。

"So Sad About Us" The whoの初期を代表する秀逸なナンバー。ドラムの軽快かつ力強いリズムがインパクトを持っている。この曲も後年The Jamがカヴァーしているが、The whoのアレンジを忠実に再現しており、こちらも是非聴いてほしい逸品である。

"A Quick One While He's Away" 彼らの代表作となるロック・オペラ"Tommy"の原点とも言える組曲形式のナンバーである。"Her Man's Been Gone","Crying Town","We Have A Remedy","Ivor The Engine Driver","Soon Be Home","You Are Forgiven"の6曲から構成される一連の流れで一つのストーリーを成しているのが特徴である。このアルバムで収録されたオリジナル版はまだ荒削りの印象があるが、後の"Live At Leeds"ではより完成度の高い演奏をライブで聴かせてくれる事になる。

デビュー作"My generation"と、ピークを迎える時期に制作された"Tommy","Live At Leeds"の狭間にあるアルバムなのでThe whoの中で目立たない印象があるこのアルバムだが、後のロック・オペラに繋がる実験的な曲があったり、後年カヴァーされる傑作があったりとなかなか侮れない。個人的には「もっと評価されて良いアルバム」の上位に入ると思っている。