洋楽好きの音盤銘盤

やっぱり洋楽は60年代が格好良い

【音盤銘盤】『ザ・フー・セル・アウト』(The Who) '67

The whoの3rdアルバム。当時流行した「コンセプト・アルバム」の影響を受けた初期の傑作。

このアルバム、"Tommy"の「予告編」といった色彩が強いが、それ以外にも海賊ラジオ局へのオマージュとしてラジオ番組仕立てにしたりとコンセプト・アルバムとしての完成度は高い。この当時、海賊ラジオ局は取り締まりを受けて閉鎖される状況を、Pete Townshendは憂いていたという逸話がある。何故なら彼らの様な駆け出しのグループの曲を積極的に取り上げてくれたのは、何よりもこれら非公式の海賊ラジオ局であったからだそうな。Peteの律儀で義理堅い人柄が表れているエピソードである。


セル・アウト+10セル・アウト+10
(2002/08/21)
ザ・フー

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The whoが本格的に「コンセプト・アルバム」に取り組んだ1枚。当時、取り締まりを受ける直前にあった海賊ラジオ番組に出演した想定の中で、彼らが演奏するという展開で曲が構成されている。曲の間をジングルや効果音、架空のCMで繋いだり、2年後に発売される出世作"Tommy"のフレーズが既に出てくる等、画期的な取り組みが行われている。サイケデリックなアレンジもされていて、華やかな仕上がりである。

"Armenia City in The Sky" 曜日を告げるオープニング用のジングルからこのアルバムは始まる。Rogerのヴォーカルはいつになくキーが高いのが印象的。高音のブラスと相まって、幻想的な雰囲気で曲が進んでいく。しかし、曲調は至ってストレートなロックで、軽快さを忘れない所が彼ららしい。

"Heinz Baked Beans" 架空のCMで曲を繋ぐ所がこのアルバムのユニークな所。コンセプト・アルバムの構成は「サージェント・ペパーズ」の影響が大きいが、その中でもオリジナリティを発揮して工夫を凝らすのが楽しい。

"Mary Anne With The Shaky Hand" The who随一のバラードといったらこの曲。ピアノとアコースティックギターのアンサンブルが心地よい。ロンドン出身のグループはR&B等、黒人音楽特有の重苦しいトーンの曲調を得意とするのが多いのだが、The whoリヴァプールマンチェスター出身の「マージービート」系の澄み切ったポップス調の曲をよく演奏していた。この曲もその中の代表的なものである。

"Odorono" これは典型的なフォーク調の曲と思いきや、曲の最後でデオドラントスプレーの商品名が出てくるというオチ。曲中に架空のコマーシャルを入れるというのはなかなかユニークな発想である。

"Tattoo" 「いれ墨」がテーマの曲。お洒落でタトゥーを入れるような文化が芽生え始めたのが、丁度この60年代半ばの事なのでしょうか。曲中では「長髪は女のする事だと親父は言う。」など当時の世相も描かれていて興味深い。後の"Live at Leeds"でも秀逸な演奏を聴かせてくれる。

"Our Love Was, Is","I Can't Reach You" これもこの時期ならではのバラード。後半のコーラスのリフレインが何とも心地よい。

"I Can See For Miles" このアルバムからシングル・カットされ、初期The whoの名曲とも言える曲。全体的にサイケデリックディストーションのかかったギターがインパクト大である。The whoは同世代のグループの中でアメリカ進出が遅れていたが、この曲が全米でもヒットしたお陰で翌年以降アメリカでも評価を上げていく事になる。

"Medac" Johnの作曲、ヴォーカルの軽快なナンバー。これも架空のCMという想定の曲である。ニキビの治療薬を持ってくるのはなかなかキャッチーである。

"Relax" この時期らしい幻想的な空気感を持った曲。靄がかかったようなふわっとした曲調は眠気を誘う。

"Silas Stingy" これもJohnによる作曲。次第に"Tommy"のストーリー仕立ての世界観が作られつつあるのが分かる所。歌詞も昔話の体裁を取ってみたりと、様々なアイデアを盛り込んでいる様子が分かる。

"Sunrise" ロック・オペラ"Tommy"が出来上がる過程を垣間見る事が出来るのが、このアルバムの魅力の一つである。この曲の詩的なイメージが今後どのように発展していくかを考えてみるのも面白いかもしれない。

"Rael " この辺りまで来ると完全に"Tommy"の青写真と言える。曲後半のギターフレーズは"Tommy"で多用されているものである。既に伏線が引かれつつあるのが見て取れて、The whoが、殊にPete Townshendの制作過程が窺い知れる所が聴いていて楽しい。