洋楽好きの音盤銘盤

やっぱり洋楽は60年代が格好良い

【音盤銘盤】『クリームの素晴らしき世界(Wheels of Fire)』 (Cream) '68

スタジオ録音とライヴ盤の2枚組となった豪華な構成のアルバム。グループの創作活動がピークに達した時期の音楽が聴ける。


クリームの素晴らしき世界クリームの素晴らしき世界
(2002/09/21)
クリーム

商品詳細を見る

この当時の2枚組と言えばBeatlesの"The Beatles(通称「ホワイト・アルバム」)"、Jimi Hendrixの"Electric Ladyland"と並んでこのアルバムが挙げられる。3アルバムとも同じ1968年のリリースである。この年は2枚組アルバムの当たり年と言えるだろう。ロック・ミュージックの表現がとどまる所を知らず拡大していく時代を垣間見る事ができる現象である。

<1枚目ースタジオ演奏>

"White Room" "Sunshine of Your Love"と並ぶCreamの代表曲。当時の流行をふんだんに盛り込んだ豪華な仕上がりである。サイケ、ラーガロック(インド音楽)、ブルースが渾然一体となって浮遊するメロディは忘れられない。Claptonのギターも自由自在に飛び交うように鳴り響いている。

"Sitting on Top of the World" 2曲目は一転してブルースのカヴァー。1st時代の流れを汲む渋好みの曲調である。Claptonの泣く様なギターの音色が印象的である。

"Passing the Time" Ginger Baker作曲による実験的な作風の曲。囁く様に歌ったかと思うと、性急なストリングスが入ったりと慌ただしい展開になる。

"As You Said" Jack Bruce作のこれまた弦楽器を多用した新しい試みを行った楽曲である。アコースティックギターとストリングスの重層的な構成が何だか不気味である。

"Pressed Rat and Warthog" 邦題は「ねずみといのしし」である。日本の干支の始めと終わりと同じなのは恐らく偶然だと思うが、奇妙な接点を感じる。ブルース調の曲に乗って語りかけるような感じで展開するユニークな作品。当時の革新的な風潮を感じさせる小品である。ストーリー仕立ての「コンセプト・アルバム」の影響も大きい。

"Politician" このアルバムの代表曲である。クラッシックの演奏の様なゆったりした展開のギターで始まる名演奏が聴ける。この辺の音楽的センスはJack Bruceの力による所が大きい。この人、スコットランドの王立アカデミーで学んでいた時代があるそうなので、結構な素養をもった人と言える。このオリジナル版も秀逸な出来だが、BBCライヴ・セッションのより荒削りなバージョンも侮れない、聴き比べをお薦めする。

"Those Were the Days" Jack Bruce作曲の軽快なポップス風のナンバー。途中からスピードアップしてギターソロが始まる所が印象的である。重厚なブルースと対照的な小品。

"Born Under a Bad Sign" ここでまたもや渋〜いブルース・カヴァーを取り上げる。淡々と刻む様なリズムが心地よい。Creamのブルース・カヴァーでも1、2を争う出来と言える。

"Deserted Cities of the Heart" アコースティックギターの軽快なリズム感で始まり、混沌としたClaptonのギターソロで急展開。全体的にフォークの影響も受けているのが分かる逸品。

<2枚目ーライヴ演奏>

"Crossroads" Robert Johnsonによるブルースの名曲をスピード感溢れるロック・ナンバーに仕上げた名演奏でライブ盤は始まる。ClaptonはYardbirds時代から「スローハンド」の異名を持つが、ここでの演奏はスローどころではなく、かなりのスピード感がある。時代はハード・ロックの黎明期であり、時代の流れを感じさせるギター捌きである。ヴォーカルもClaptonであるが、線の細い声質が若々しくて何だか微笑ましい。4分余りのタイトな演奏であり、個人的にはもっと長時間演奏してもらいたいと思ってしまう勿体なさが有る。それでもベースとドラムとギターが渾然一体となって絶妙なリズムで進行していく感じがたまらない。

"Spoonful" 1stでも取り上げられていたブルースのカヴァー。ここでは16分にも亘る大インプロヴィゼーションになっている。中盤からギターとドラムが競う様に突っ走っていく様はいつ聴いても飽きない。何時間でも延々と聴き続けられる演奏である。

"Traintime" ここはJack Bruceの独擅場である。ブルースハープとドラムのリズムだけの非常にシンプルな構成。堰を切ったように畳み掛けるヴォーカルは強烈なインパクトを残す。

"Toad" Ginger Bakerのドラムソロを中心にこれまた16分もの長尺な演奏でライヴ盤を終了する。さすがにドラムだけを10分以上聴き続けるのはしんどい所もあるが、Clapton,Jack Bruceと共に三者三様の見せ場を売りにしたかった為に止むを得ない構成だったと考えられる。ここは早送りなんかせずにきちんと通しで聴くのが洋楽好きの務めであろう。

スタジオ収録、ライヴ演奏の2本立てという当時としては非常に盛りだくさんな出来となっているが、1曲ずつ聴き直してみるとCreamの多様な音楽性、幅の広さを感じる事が出来るのが分かる。ブルースの純粋なカヴァーを追究するのはこのグループの重要な側面ではあるが、意外と先進的というか、やや前衛的な音楽にも取り組んでいたり、当時の流行の最先端はきちんと押さえていたりと音楽に対して懐の深い姿勢をとっていたのがこのアルバムによく表れていると思う。