洋楽好きの音盤銘盤

やっぱり洋楽は60年代が格好良い

【音盤銘盤】『ベガーズ・バンケット』(The Rolling Stones) '68

サイケデリック・ブームから脱却後、彼らの原点であるR&Bへと再び戻る事になったアルバム。ストーンズとしては勿論、ロックの歴史の中でも最高傑作に位置付けられるアルバム。


ベガーズ・バンケットベガーズ・バンケット
(2002/11/09)
ザ・ローリング・ストーンズ

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前作「サタニック・マジェスティーズ」では賛否両論真っ二つに分かれた評価だったが、翌年始まったレコーディングでは新たにジミー・ミラーをプロデューサーに迎える等、思い切った改革に臨んだ。

音楽面でもデビュー当初のR&Bやブルースへの回帰をして本来のストーンズらしさを取り戻す事ができているように見受けられる。正確には回帰というより、発展して一回りも二回りもレベルアップした印象を与える作品である。同時期にリリースされたシングル"Jumpin' Jack Flash"と共に何ランクも楽曲のクオリティが上がっている。

ストーンズが音楽的に「近代化」を図った成果がアルバムに表現されていると言っても過言ではない。21世紀の現在聴いても決して古臭くなっていない。

"Sympathy for the Devil " 「悪魔を憐れむ歌」という邦題が付けられている。この時代の邦題のセンスは粋なものが多い。オープニングからパーカッションとMickのシャウトそして16ビートのリズムと、明らかに「異質」な空気が支配している。このアルバムを始めて聴いた当時、既に傑作アルバムであるという事は有名であったので、ストーンズが全く異なるバンドに変貌したという印象を受けて非常に驚いた記憶がある。終盤のギターソロも何だか猛々しい。茫洋としたR&Bのリズム感とは随分異なるものに変わっている。

ジャン=リュック・ゴダールによる『ワン・プラス・ワン』という映画ではこの曲の制作過程が撮影されていたが、レコーディング当初はキーボードとフォークギター中心のゆったりした印象であるのが分かる。ところが、独自のコーラスを入れたり、パーカションの演奏を加えることでオカルト的な怪しげな曲調に変貌していく所が興味深い。『ベガーズ・バンケット』の制作過程を知る上でこの『ワン・プラス・ワン』は貴重な映像であるのは言うまでもない。

"No Expectations" Brianによるスライドギターが光る逸品。Brianの数少ない演奏が聴ける曲である。歌詞といい曲名といい退廃的なイメージが彼に重なっているが、曲調は非常にゆったり、のどかである。そのギャップが面白い。

"Dear Doctor","Parachute Woman" この2曲、わざと古臭い感じに曲を作っているのが興味深い所。意図的に音をこもらせて昔のブルースを再現している所に彼らの曲作りへのこだわりが見れとれる。

"Jigsaw Puzzle" このアルバムはスライドギターが目立つ曲が多いが、この曲のその中の一つ。"No Expectations"と対照的にスピード感があって鋭さを増している。アコースティックギターをかぶせて録音したりとKeithの活躍が目立つ作品である。字余りで言葉を畳み掛けるようなMickの歌い方はBob Dylanの影響をもろに受けていて、ちょっと微笑ましい。中盤から盛り上げて壮大な構成にしている所はストーンズの成長ぶりが窺える。個人的にはこのアルバムの中で一番好きである。

"Street Fighting Man" Brianのシタールが活躍する貴重な曲。畳み掛けるようなドラムの力強さも強烈なインパクトを残している。ストーンズの曲には政治や国際問題に触れるような曲はそう多くはないが、この曲では彼らの政治的な思想というか、立ち位置みたいなものを垣間見ることができる。「自分達にできることはロックンロール・バンドで歌うことだけ」というのは何とも痛快で彼ら(特にMick)の生き様をよく表していると思う。

”Prodigal Son” 「放蕩むすこ」という邦題がつくアルバム。これはブルースのカヴァーであるが、ストーンズの豪胆なキャラクターに合う曲である。曲選びの多彩さが見て取れる。

"Stray Cat Blues" ズルズルと引きずるような重苦しいリズム感。ハードロックの時代がすぐそこまでやってきているのが分かる。時代の変化は敏感に察知して見逃さないのが彼らの強さである。

"Factory Girl" ストリングス演奏の目立つ古風なブルースである。このアルバムを初めて聴いたのは高校生の頃だったが、さすがにこの曲は渋すぎて格好良さが理解できなかった。

”Salt of the Earth” 「地の塩」という邦題が付く、アルバムのラストにふさわしい壮大な曲。聖書に影響を受けた歌詞なので日本人にはやや理解しにくいかもしれない。ただ「名も無い民衆を讃えよう」という全体的なテーマは理解できたし、共感する所大であった。壮大さでは"Jigsaw Puzzle"と対をなしている印象で、ライブであまり取り上げられていないのが不思議である。