洋楽好きの音盤銘盤

やっぱり洋楽は60年代が格好良い

【音盤銘盤】『レット・イット・ブリード』(The Rolling Stones) '69

Brianのグループ脱退〜死去、ウッドストック等のロック史に残るイベントの開催、学生紛争やベトナム戦争といった社会情勢の急激な変化といった様に、バンド内・ロック界・社会全体ともに激動の時代に突入した頃に発売されたアルバム。


レット・イット・ブリードレット・イット・ブリード
(2002/11/09)
ザ・ローリング・ストーンズ

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前作「ベガーズ・バンケット」の大成功に続いて制作されたストーンズの傑作アルバム。制作途中にBrianの脱退、Mick Taylorの加入といったギタリストのメンバー・チェンジがあった為か、多くの曲ではKeith一人で演奏している。この為、前作のような混沌として猥雑な印象は薄く、透明感のある曲調に仕上がっている。前作も傑作であったが、このアルバムは更に洗練さも増しており、ミュージシャンとして磨きがかかっている様子が窺える。

”Gimme Shelter” 粒の揃った音色のギター・ソロから始まる大作からこのアルバムは始まる。ベトナム戦争の激化等の社会情勢が歌詞に色濃く反映されているのが特色。明らかに曲のトーンが今までのものより重厚感を増しており、ストーンズが「大物」になりつつある様子が分かる。筆者が高校生の頃、「エド・サリバン・ショー」をNHKで放映しているのを見たことがあるが、バンドのメンバーのきらびやかな服装といい、メーキャップを施す所といい、60年代初頭の"Satisfaction"時代の映像とは異なり、大人っぽい雰囲気に変貌していたのが衝撃的であった。特にKeithはピアス等のアクセサリーをしていて既に退廃的なオーラを出していたのが記憶に残っている。

”Love in Vain” 久しぶりにブルースのカバーが出てくる。ロバート・ジョンソンという戦前のミュージシャンを持ってくる所が渋い。Ry Cooderによるマンドリンの演奏が冴える曲。このアルバムでは彼以外にも様々なミュージシャンをレコーディングに登用しており、多様な「文化」が入り交じっている様子に興味が尽きない。

"Country Honk" このアルバムに先駆けて発売された"Honky Tonk Women"をカントリー風にアレンジしたもの。ストーンズの専売特許と言えばR&Bと考える向きも多いだろうが、カントリー・ミュージックに対する造詣の深さも無視できない。この頃からカントリー風の傑作曲が出てくるようになる。ストーンズが様々なジャンルの音楽を貪欲に取り込んでいく姿勢はやはり凄い所である。

”Live With Me” Leon Russell,Nicky Hopkinsといった有力ミュージシャンをピアニストとして登用したアップテンポのナンバー。この時期のストーンズはギタリストのメンバー交代等、人材が流動的な状態にあったのは前にも書いた通りだが、その中で名うてのミュージシャンをレコーディングに参加させて多様な曲作りをしている所はなかなか巧い戦略であると思う。

"Let It Bleed" スライド・ギターとピアノの気怠いトーンで始まるこのアルバムのハイライトとも言える曲。70年代以降顕著になる何とも言えないルーズさの原点はこの曲から始まるのではないかと考えている。同時期にBeatlesは"Let it be"というこれまた傑作曲(アルバム)を出しているが、まさかパクったのではあるまいか?リリースはBeatlesの方が後なのだが、レコーディングはほぼ同時期。お互いこの時期の事に多くは語っていない様子だが、非常に気になる所ではある。10数年前、ちょうど私が大学生の頃にNHK BSで「音盤夜話」という番組が放映されていたが、この「レット・イット・ブリード」が紹介されていた回で近田春夫氏等が「まさかパクるなんてあるのかなあ。」と話題にしていたのが印象的であった。

”Midnight Rambler” ブルース・ハープとギター、ドラムスが渾然一体となってスピードを上げていく中盤以降が聴き所である。初期の"Aftermath"の"Goin' Home"を彷彿とさせる長丁場の曲である。個人的には同時期に発売されたライブ盤「ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト」に収録されたバージョンの方がメリハリがあって良いと感じている。でもスタジオ版もたまに聴きたくなる。

”You Got the Silver” 記念すべきKeith初のリード・ヴォーカル曲。そしてBrianが参加しているこのアルバムの数少ない曲でもある。3分足らずの短い曲だが、感慨深い。

"Monkey Man" 洗練されたスライド・ギターとピアノのスピード感あふれる演奏が印象的なナンバー。個人的にはこのアルバムの中で最も好きな曲である。いかにもライブ向きであるが「ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト」で取り上げられていないのはちと残念である。

"You Can't Always Get What You Want" 邦題で「無情の世界」。Al Kooperがホーン、ピアノ等で参加しているのがポイントである。しかし何よりもこの曲の壮大さを特徴付けているのはオープニングの聖歌隊の合唱である。そしてその後に続くMickの切々としたヴォーカル、中盤からのパーカッションのリズム、最後に再び聖歌隊による合唱という豪華な構成。音楽的に彼らのピークとも言えるかもしれない傑作中の傑作である。