洋楽好きの音盤銘盤

やっぱり洋楽は60年代が格好良い

【音盤銘盤】『ロジャー・ジ・エンジニア』 (The Yardbirds) '66

Jeff Beck期のスタジオ収録盤の最高傑作。現在はJimmy Pageとの「ツイン・リード」時代の曲も聴ける逸品。


ロジャー・ジ・エンジニアロジャー・ジ・エンジニア
(1994/05/21)
ヤードバーズ

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Beatles,Rolling Stones等、60年代に台頭したグループの多くはR&Bカヴァー曲のレパートリーを多数抱えていたのであるが、60年代も中盤に差し掛かるとオリジナル曲を作り上げる事に力を入れる様になる。Yardbirdsも例外ではなく、このアルバムでは全曲メンバーの手によるオリジナル(一部改作もあり)となっている。

スタジオ収録であるもののJeff Beckの才気溢れるギターは相変わらず、Keith Relfのブルース・ハープの熱気のある演奏が聴ける生き生きした音が再現されている。

"Lost Woman" 初期の編集盤に収録された"Someone to love"の改作である。Beckのギターは良くも悪くも突拍子もない所があり、それが如実に表れている作品。後年のJeff Beck Groupやソロ時代に繋がる奇想天外なフレーズが聴ける。Beckのギターに続いてRelfのブルース・ハープの躍動感ある演奏も感動的である。

"Over Under Sideways Down" 序盤からいきなりシタール風のエキゾチックなフレーズから始まるポップな曲。後期のJimmy Page時代のライヴでも取り上げられていたので、メンバーも結構お気に入りの作品と見える。

"The Nazz Are Blue" Beckのギターを十二分に満喫できる作品。若干音程をずらしながら突っ走る感じが格好良い。一度聴くと癖になる味である。ヴォーカルもBeckがこなしている。中盤から歪んだトーンから透き通った音色に変わっていくギターソロが白眉である。この時代の録音技術でこれだけ多彩な表現を出来る才能は何にも代え難いと思っている。

"I Can't Make Your Way" 長閑なRelfのヴォーカルで始まるフォーク調のナンバー。初期の編集盤にも入っていてもおかしくなさそうな素朴な雰囲気の曲である。しかし、中盤から一変してBeckのギターが展開する所が印象的。

"Rack My Mind" Yardbirdsの特徴的な曲展開の1つにヴォーカルとギターの対峙があるが、まさにこの曲が典型的な例である。序盤はRelfが淡々とブルース調の曲を歌い上げ、途中からギターが切り込む様に入り込んで一気に曲調が展開するというものである。

"Farewell" イギリスの民謡にヒントを得て作ったものと見られる、オーソドックスなフォークソング。この辺りの嗜好はRelfによる所が大きいのだろう。

"Hot House of Omagarashid" ドラムのJim McCartyのパーカッションと叫び声(?)をフィーチャーした意欲作。こういったユニークな表現はThe WhoKeith Moonの影響もあったのではなかろうか。普段スポットの当たりにくいリズム隊も主役になれるような努力が垣間見える。

"Jeff's Boogie" Beckのソロを存分に堪能できる逸品。彼がロカビリーの影響を強く受けた事が分かる仕上がりになっている。

"He's Always There" ファズ・トーンのギターを多用した小品。ファズは当時の流行だったのだろうか。Stonesの"Aftermath"を思わせる陰影のある仕上がりである。渋好みの作風。

"Turn into Earth" 初期の"Still I'm sad"を思わせるグレゴリオ聖歌の様な幻想的な曲。この辺りの趣向はベースのPaul Samwell-Smithのセンスに拠る所が大きい。因みにこの人、このアルバムを最後にYardbirdsを脱退、プロデューサーとして活躍する事に。

"What Do You Want" Beckのギターが例外なく冴える曲。ベースのSamwell-Smithの演奏もなかなか多彩で侮れないのが分かる貴重な作品。

"Ever Since the World Began" この曲もグレゴリオ聖歌をモチーフにした作品であるが、途中からR&B調のリズムに急展開するという、何ともユニーク、斬新な出来である。Yardbirdsというとギタリストばかりに目を奪われて他のメンバーが過小評価されている節があるがここでのSamwell-Smithの仕事はもっと注目されて良いと思うのである。

”Psycho Daisies” Beck/Pageの「ツイン・リード」時代のシングル。現在発売されている再発版のアルバムでは収録されている。2人のギタリストが争う様に弾いている姿が目に浮かぶ曲。ヴォーカルはBeckが担当である。歌詞で韻を踏んでいる所が興味深い。

"Happenings Ten Years Time Ago" 邦題では「幻の10年」として当時リリースされていた曲。これも「ツイン・リード」時代の数少ない貴重な作品である。後にPageとLed Zeppelinを結成する事になるJohn Paul Jonesがセッションメンバーとして参加している所が面白い所か。ギターの構成も当時としては随分重厚な感じで、既にZeppelinの構想が出来つつあるのが見えて興味が尽きない。フレージングがところどころStonesの"19th nervous breakdown"みたいに急降下するようなリズムでちょっと微笑ましい。

公式盤として初のスタジオ収録という事もあり、非常に意欲的な作品が揃っているのがこのアルバムの特徴と言える。惜しむらくはこのアルバムを最後にBeckが脱退、ベースのSamwell-Smithもプロデューサーへ転向と、非常にメンバーの入れ替わりが激しい事であろうか。今ひとつ評価が低いのはそのせいもあるかもしれぬ。