洋楽好きの音盤銘盤

やっぱり洋楽は60年代が格好良い

【音盤銘盤】『ミスター・タンブリン・マン』 (Byrds) '65

"フォーク・ロック"の先駆けとなったアルバム。BeatlesBob Dylanの音楽性が見事にマッチした傑作。

The Byrds ミスター・タンブリン・マン

11_01_tambourineman.png

久しぶりにアメリカのアーティストを取り上げる。S&G,CCRに続いて個人的に印象深いグループがByrdsである。このデビュー作"Mr. Tambourine Man"を初めて聴いたのは高校1年の頃の事である。12弦ギターの澄み切った音色とコーラスのハーモニーが極めて絶妙で、同世代のBeatles,Rolling Stonesの様なブリティッシュ勢とは異なる魅力を持ったグループであった。

Byrdsのデビュー当初のメンバーは以下の5名。

・Roger McGuinn(guitar, vocals)

・Gene Clark(rhythm guitar, tambourine, vocals)

・David Crosby(rhythm guitar, vocals)

・Chris Hillman(bass)

・Michael Clarke(drums)

このアルバムのタイトル曲もそうであるが、初期はBob Dylanのカヴァー曲を取り上げながら、当時流行していたBeatlesを始めとするブリティッシュ・ロック風のアレンジを施すタイプの演奏が中心であった。この為、「ブリティッシュ・ロックに対するアメリカの返答」と評価される事も多かったが、次第にオリジナル曲で独自の才能を開花させていく。

"Mr. Tambourine Man" Byrdsのデビュー作であり、代表曲と言える曲。オリジナルはBob Dylanの作であるが、このByrdsのアレンジはオリジナルと全く異なり、既に創造的な作風に仕上がっている。Roger McGuinnのオルゴールの様に澄んだ、高いトーンの12弦ギターとコーラスの組み合わせが秀逸な名曲。Bob Dylanの原曲とは似ても似つかぬアレンジが施されている。

"I'll Feel a Whole Lot Better" Gene Clarkオリジナル曲。当時流行であったブリティッシュ・ビートの影響を相当受けて作られたと思われる作品。ギターのスピード感と澄んだトーンの音色が心地よいオリジナル曲随一の名作。個人的にはこのアルバムで一番好き。

"Spanish Harlem Incident" これもDylanのカヴァー。RogerのヴォーカルはDylanの影響だろうか、わざと声を低く、くぐもらせる様にして歌っている。

"You Won't Have to Cry","Here Without You"  淡々と奏でられるリズムとコーラスが秀逸な小品が続く。イギリスの、殊にビートルズを始めとするリヴァプールマンチェスター系のマージー・ビートに対する憧憬が感じられる曲。

"The Bells of Rhymney" Dylanに先行して活躍したフォーク・シンガー、Pete Seegerのオリジナル。Dylan以外のフォーク曲も熱心に取り上げていたことが分かる。当時のフォークは社会を風刺をテーマにしたものが多いが、この曲もその1つである。当時の炭坑労働者をテーマに取り上げている曲。

"All I Really Want to Do" 再びDylanのカヴァーを取り上げる。このアルバムで取り上げられている12弦ギターの音色にはBeatlesも影響を受けて、George Harrisonがアルバム"Help!"の中の曲で取り入れるといった相互作用が起きている。当時の英米間でのポップス(まだロックではなく)の対抗意識を感じさせるエピソードである。

"I Knew I'd Want You" Gene Clarkのオリジナルであるが、既にDylan風のフォークを自分のものにしているのが分かる曲。Beatlesの4作目"For sale"辺りの作風にも近い。

"It's No Use" Beatlesだけではなくロンドン勢、特にKinksの影響も多分に受けていたと分かる曲がこれ。他の曲に比べてギターのエッジが鋭く、尖った装飾で響いているのが特徴的。

"Don't Doubt Yourself, Babe" 中盤からボ・ディドリー風の波打つ様なリズムが展開するユニークなナンバー。この編曲のチョイスはRolling Stonesの影響が大きいのであろう。

"Chimes of Freedom" これもDylanのカヴァー。この曲が特徴的であるが、初期のDylan曲の歌詞は難解というか抽象的で、なんだか聖書の文言を引き合いに出している印象がある。高校生の頃に初めてこの歌詞を読んだ時はなんだか小難しい人物、というのがDylanに対する認識であった。実はDylanがフォークを中心に取り上げて活動していたのは、ごく初期の頃だけで早々にロックに転向するのを後に知る事になるが、当時の高校生にはやはりDylanは親しみやすい音楽とは言えなかったのが実情である。

"We'll Meet Again" ゆったりしたフォークのカヴァーで幕を閉じる。終盤のギターにディストーションがかかってフェード・アウトする所に、サイケデリック時代への萌芽が見えて興味深い。