洋楽好きの音盤銘盤

やっぱり洋楽は60年代が格好良い

【音盤銘盤】『霧の五次元』 (Byrds) '66

Bob Dylanのカヴァーから脱却し、オリジナル指向を強めた作品。来たるサイケデリック・ムーブメントを先取りした曲調も秀逸なアルバム。

The Byrds 霧の五次元

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3rdアルバムにして殆どの曲をメンバーの作詞・作曲しているのが、本作の特徴。アルバムジャケットのロゴといい、曲全体のトーンといいサイケデリック時代特有の幻想的なトーンが色濃くなっていくのが分かる。Beatles,Rolling Stonesなどのブリティッシュ勢がサイケ指向を強めるのはこのアルバムのリリース後、67年に入っての事なので、当時の流行の先端はアメリカにあったのが明らかである。

"5D (Fifth Dimension)" Roger McGuinn作のフォーク調の御馴染みのトーンで始まる。ただし初期の1st,2ndの頃と比べて格段にコーラス、演奏ともに洗練されている。

"Wild Mountain Thyme" トラディショナル曲のアレンジであるが、単なるカヴァーにとどまらずストリングスの装飾を施したりと細かい工夫を試みている所が粋である。

"Mr. Spaceman" 後にライヴでもよく取り上げられる軽快なポップナンバー。Rogerの曲作りにも余裕が感じられる様に聞こえる。

"I See You" Roger McGuinn,David Crosbyの共作。ギターの音色が混沌とした感じで、この曲のアクセントになっている。インド音楽(シタールとか)の影響も見て取れる作風である。

"What's Happening?!?!" David Crosbyのソロ作とも言える記念すべき曲。ギターのトーンが幻想的に変わりつつあるのが見て取れる興味深い逸品。シタールの影響も無視できない所。

"I Come and Stand at Every Door" このブログを書くにあたりアルバムの歌詞カードを見て改めて気がついたが、この曲戦時中の広島をテーマに扱っている反戦をテーマにしたものだそう。やはり歌詞カードがついていると勉強になる。

"Eight Miles High"(霧の8マイル) このアルバム随一の傑作であり、バーズのターニングポイントになった曲。この曲で完全にBob Dylanの影響から離れて独自の作曲センスを確立したと言える。波打つようなゆらゆらしたリズムのギターに時折入るシタール風の搔き鳴らすようなギターが絡んでくる所が本作のハイライト。

"Hey Joe (Where You Gonna Go)" David Crosbyがヴォーカルの軽快なR&Rナンバー。Rogerに比べてキーが高いのでアップテンポのノリに合っている。

"Captain Soul" 同時期のRolling Stonesを彷彿とさせるR&Bのインストゥルメンタルブルースハープの演奏が格好良い逸品。

"John Riley" バーズの特徴として古風なトラディショナルナンバーをレパートリーとして取り上げる点がある。この曲もその1つである。

"2-4-2 Fox Trot (The Lear Jet Song)" 当時の流行にはサイケデリックインド音楽のような幻想的なトーンを取り込む事もさることながら、その他にも様々な効果音を実験的に演奏に使用する事も多かった。バーズがこの曲で取り入れたのは飛行機のジェットエンジンの音である。無機質な高音がサイケのカラフルなトーンとは対照的で随分洒落た作りになっている。

バーズというとBob Dylanの影響を無視する事はできないと思うが、このアルバムはその流れに反してBob Dylanの曲は一曲も取り上げられていない。時代がサイケデリックの幻想的な空気感に流されてる中で、フォークソングのような素朴かつシンプルなものから次第に実験的な曲作りに意欲を出す様になった現れだと考えられる。とくに"Eight Miles High"は革新的な構成をしており、21世紀になった今現在聴いても全く古臭さを感じない。12弦ギターの金属音も巧くアレンジして幻想的な曲調に一役買っていると言える。