洋楽好きの音盤銘盤

やっぱり洋楽は60年代が格好良い

【音盤銘盤】『名うてのバード兄弟』 (Byrds) '68

デビューしてはや3年余り。サイケデリックムーブメントの喧噪もピークを過ぎた68年初頭にリリースされたのがこの"The Notorious Byrd Brothers(名うてのバード兄弟)"である。ブラス・セクションを取り入れてより壮大なイメージの作風が目立つ一方で、グループ後期のカントリー・ロックへ繋がる様な長閑な曲調もありいつ聴いても飽きない出来栄えとなっている。

The Byrds 名うてのバード兄弟

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"Artificial Energy" オープニングから軽快なブラスの演奏が印象的。この辺りのさりげない演出はもはやブリティッシュ・ロックの重鎮、Kinksの影響も多分にあると思われる。

"Goin' Back" ストリングスを盛り込んだ切ないトーンの小品。歌詞は純朴な幼少の頃を振り返って懐かしむ展開である。

"Natural Harmony" エコーがかかったヴォーカルが浮遊していて幻想的。サイケデリックな時代の象徴的な1曲。

"Draft Morning" このアルバムのヴォーカルは遠くから聞こえてくる感じのものが多い。曲の途中で爆撃機だか銃声らしき効果音がかぶさってくる所が繊細なギターの音色と対照的でギャップがある。ベトナム戦争が激化する時代であり、もしかしたら反戦のメッセージを込めて取り入れたのかもしれぬ。

"Wasn't Born to Follow" カントリー風のギターフレーズが特徴的なナンバー。後に正式メンバーとして加入するClarence Whiteがギターを弾いている。Byrds後期のカントリー指向へつながる曲。

"Get to You" サイケデリックの喧噪はどこへやら。コーラスワークが秀逸なのは相変わらずである。

"Change Is Now" 初期から続く12弦ギターのフレーズとカントリーミュージックのゆったりしたリズム感が絶妙にマッチした作風。このアルバムのハイライトと言える作品。

"Old John Robertson" これもカントリー。完全に70年代の流行を先取りしているのが分かる1曲。

"Tribal Gathering" この頃のRoger McGuinnはヒッピーに傾倒していた様で、この曲はそのイベントに参加する中で影響を受けて作られたもの。混沌としたリズムが何だか心地よい。

"Dolphin's Smile" イルカの鳴き声を効果音にあしらったお洒落な作風。このアルバムはBGM向きの曲が多い。

"Space Odyssey" 宇宙をテーマにした壮大な曲でこのアルバムはラスト。無機質な電子音がちょっと不気味である。

ブラス・セクション、カントリーミュージック、効果音による演出など実験的な取り組みをしているのは、同年代のブリティッシュ勢と同様である。けばけばしいアレンジが無いので今聴き直してもあまりくどくないのが良い。Byrdsはこのアルバムに限らずほぼ全てのアルバムでRoger McGuinnが主導で制作しているが、アレンジのさじ加減の巧さはKinksのRay Davisと並び称されると思う。そういった意味でRoger McGuinnはもっと高い評価を受けて良いミュージシャンと言える。

【音盤銘盤】『昨日より若く』 (Byrds) '67

ロックグループとして完成の域に達した4枚目のアルバム。バーズのキャリアにおいて折り返し地点に来た時代の一枚。

The Byrds 昨日よりも若く

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1964年にデビューして約3年で4枚目のアルバム。同世代の数多くのグループの中では順調に実績を残してきたグループである。本作では既に手練の演奏・作曲センスを見せてくれる。

このブログを書くにあたって、久しぶりに聴いてみると意外な発見があった。1967年というサイケデリック・ムーヴメント真っ只中にありながら、煌びやかな装飾を施したアレンジが思ったより少ないという事である。所々にテープの逆回転の効果音をかぶせたりと実験的な事をやっているのだが、極端にけばけばしい演出、芝居がかった華やかな展開は無く、割と淡々とした作りなのである。デビュー当初から続くフォーク・ロックから軸足をずらしていない一方で、既に70年代のカントリー・ロックを先取りするかのような曲も有り、時代の流行にどっぷりはまっているという感じが無い。これはByrdsを語る上で無視できない要素だと思う。

"So You Want to Be a Rock 'n' Roll Star" ロックの華やかさとは裏腹に業界の下世話な商売臭さを端的に歌詞に表現している所が心憎い。しかし、曲自体は極めて軽快で後半に観客の歓声を効果音としてかぶせたりと細かい芸を聴かせてくれる逸品。

"Have You Seen Her Face" ベースのChris Hillmanの作。オープニングの斬り込むように入ってくるギターが渋く、格好良い。Rogerのギタリストとして腕の見せ所である。全体の曲調はリアルタイムでバーズを聴いた事の無いような日本人でもどこか懐かしさを感じさせる、不思議なトーンである。この曲を初めて聴いたのは24才の頃、社会人になって2年目位の時であったが、妙に郷愁を感じる印象的な曲だったのを覚えている。本アルバム"Younger Than Yesterday"をよく聴いていた頃に学生時代の同級生と久しぶりに飲んだせいもあり、この曲を聴くと大学生の頃に戻った気分になる。

"C.T.A.-102" いかにも67年の時代の流行に乗っている感じが曲に表れている。宇宙をテーマにした曲であり、途中から宇宙人を模した機械的な甲高い声やノイズが挟み込まれたりと、遊び心のある出来になっている。

"Renaissance Fair" David Crosby, Jim McGuinnによる共作。コーラスにしろギターのフレージングにしても4枚のアルバムを通して洗練されているのが分かる。

"Time Between" Chris Hillmanによる優れた小品。Beatlesの"For Sale"あたりのカントリー調のフレーズに非常に良く似たノリの曲。短いながらも完成度の高いナンバー。

"Everybody's Been Burned" David Crosbyの単独作である。繊細なトーンのギターが何とも愛おしい隠れた名曲。Crosbyの出世作とも言える。

"Thoughts and Words" Chris Hillmanの傑作。サイケデリック時代を象徴するような幻想的なトーンの効果音が印象的。テープの逆回転等、実験的な取り組みを行っている。

"Mind Gardens" これもDavid Crosbyの手による曲。12弦ギターの演奏をレコーディング後、テープを逆回転させてシタール風にしてみせたりと、この時代らしい細かい仕事ぶりが聴けて興味深い。

"My Back Pages" このアルバム唯一のカヴァー曲。久しぶりにBob Dylanの曲を取り上げる。オリジナルに比べて非常に洗練されたものになっており、演奏力・歌唱力の上達がはっきりと分かる出来である。後年のライブでもよく取り上げられたので、彼らもお気に入りであったのだろう。

"The Girl with No Name" カントリー風のフレーズが新鮮な軽快な逸品。これもChris Hillmanの作である。バーズ後期のカントリー路線を先取りするかのような出来。

"Why" このアルバム随一の傑作である。Rogerのお家芸と言える12弦ギターの倍音が心地よい。

従来作詞・作曲面で中心的だったRoger McGuinnによる曲は少なくなり、他メンバー、David Crosby、Chris Hillmanの単独作が目立つ様になってきたのが特徴的な所だろうか。この辺りの流れはBeatlesなんかとよく似ている。初期はJohnとPaulの共作が多く、中盤辺りからPaul、そしてGeorgeによる単独作がちらほら出だす過程は共通するところである。従ってアルバムの曲構成も多彩で充実したものになっている。軽快なポップス調のものから、バラード寄りのものとか、カントリー系のものまで幅広いジャンルの曲が揃っている。

【音盤銘盤】『霧の五次元』 (Byrds) '66

Bob Dylanのカヴァーから脱却し、オリジナル指向を強めた作品。来たるサイケデリック・ムーブメントを先取りした曲調も秀逸なアルバム。

The Byrds 霧の五次元

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3rdアルバムにして殆どの曲をメンバーの作詞・作曲しているのが、本作の特徴。アルバムジャケットのロゴといい、曲全体のトーンといいサイケデリック時代特有の幻想的なトーンが色濃くなっていくのが分かる。Beatles,Rolling Stonesなどのブリティッシュ勢がサイケ指向を強めるのはこのアルバムのリリース後、67年に入っての事なので、当時の流行の先端はアメリカにあったのが明らかである。

"5D (Fifth Dimension)" Roger McGuinn作のフォーク調の御馴染みのトーンで始まる。ただし初期の1st,2ndの頃と比べて格段にコーラス、演奏ともに洗練されている。

"Wild Mountain Thyme" トラディショナル曲のアレンジであるが、単なるカヴァーにとどまらずストリングスの装飾を施したりと細かい工夫を試みている所が粋である。

"Mr. Spaceman" 後にライヴでもよく取り上げられる軽快なポップナンバー。Rogerの曲作りにも余裕が感じられる様に聞こえる。

"I See You" Roger McGuinn,David Crosbyの共作。ギターの音色が混沌とした感じで、この曲のアクセントになっている。インド音楽(シタールとか)の影響も見て取れる作風である。

"What's Happening?!?!" David Crosbyのソロ作とも言える記念すべき曲。ギターのトーンが幻想的に変わりつつあるのが見て取れる興味深い逸品。シタールの影響も無視できない所。

"I Come and Stand at Every Door" このブログを書くにあたりアルバムの歌詞カードを見て改めて気がついたが、この曲戦時中の広島をテーマに扱っている反戦をテーマにしたものだそう。やはり歌詞カードがついていると勉強になる。

"Eight Miles High"(霧の8マイル) このアルバム随一の傑作であり、バーズのターニングポイントになった曲。この曲で完全にBob Dylanの影響から離れて独自の作曲センスを確立したと言える。波打つようなゆらゆらしたリズムのギターに時折入るシタール風の搔き鳴らすようなギターが絡んでくる所が本作のハイライト。

"Hey Joe (Where You Gonna Go)" David Crosbyがヴォーカルの軽快なR&Rナンバー。Rogerに比べてキーが高いのでアップテンポのノリに合っている。

"Captain Soul" 同時期のRolling Stonesを彷彿とさせるR&Bのインストゥルメンタルブルースハープの演奏が格好良い逸品。

"John Riley" バーズの特徴として古風なトラディショナルナンバーをレパートリーとして取り上げる点がある。この曲もその1つである。

"2-4-2 Fox Trot (The Lear Jet Song)" 当時の流行にはサイケデリックインド音楽のような幻想的なトーンを取り込む事もさることながら、その他にも様々な効果音を実験的に演奏に使用する事も多かった。バーズがこの曲で取り入れたのは飛行機のジェットエンジンの音である。無機質な高音がサイケのカラフルなトーンとは対照的で随分洒落た作りになっている。

バーズというとBob Dylanの影響を無視する事はできないと思うが、このアルバムはその流れに反してBob Dylanの曲は一曲も取り上げられていない。時代がサイケデリックの幻想的な空気感に流されてる中で、フォークソングのような素朴かつシンプルなものから次第に実験的な曲作りに意欲を出す様になった現れだと考えられる。とくに"Eight Miles High"は革新的な構成をしており、21世紀になった今現在聴いても全く古臭さを感じない。12弦ギターの金属音も巧くアレンジして幻想的な曲調に一役買っていると言える。

【音盤銘盤】『ターン・ターン・ターン』 (Byrds) '65

全米ヒットチャートで1位を記録したタイトル曲と共に、フォーク・ロックの集大成と言えるアルバム。

The Byrds ターン・ターン・ターン

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前作"Mr. Tambourine Man"のヒットに続いて1年も経たないうちに制作された2ndアルバム。全体的にフォーク調の地味なトーンで彩られているが、要所要所で飽きさせない工夫が施されている一枚。

"Turn! Turn! Turn! (To Everything There is a Season)" Bob Dylanの先輩格にあたるフォーク・シンガーPete Seegerが取り上げた曲。

"It Won't Be Wrong" Roger McGuinnによりオリジナル曲。既にサイケデリックを予見しているかのような歪んだ音色のリズムが印象的。

"Set You Free This Time" Gene Clarkの作。終盤に挟み込まれるブルース・ハープのアレンジが聴いていて心地よい。

"Lay Down Your Weary Tune" Byrdsのお家芸Bob Dylanのカヴァー。ゆったり感満載の曲調が良い。

"He Was a Friend of Mine" トラディショナル曲にRogerが歌詞とアレンジを施した小品。同時期のS&G(Simon & Garfunkel)に通じるアコースティックのナンバー。

"The World Turns All Around Her","Satisfied Mind","If You're Gone" 暫くGene Clarkの作のナンバーやカヴァー曲が続く。単調なリズムながらも、コーラスが手堅く、実力を表している。

"The Times They Are a-Changin'" オリジナルのBob Dylanでも名曲とされる秀逸なメッセージソング。「時代は変わる」の邦題でも有名である。社会の変革期を象徴する様な歌詞は現在にも通じる思想みたいなものが流れている。Dylanのオリジナルに比べると曲調は淡々としており、思いがけなくあっさり終わってしまう感じが何だか物足りない気もする。

"Wait and See" Roger,David Crosbyの作。終盤のストリングス風のギター・ソロがアクセントになっている。

"Oh! Susannah" トラディショナル曲をもう一度取り上げている。原曲はバンジョーで演奏されていたものだが、12弦ギターの響きも優れている。

1stと比べてタイトル曲"Turn! Turn! Turn!"を除くとインパクトのある曲は少なく、曲名を見てもすぐにはメロディーが思い浮かばない曲が多いのがこのアルバムの特徴である。全体的にリズムが単調で似たトーンの曲が多いのが惜しい。前作のヒットに併せてアルバムを作成した為か、オリジナル曲をあまり収録できず、カヴァーやトラディショナル系の曲で埋め合わせして演奏に腐心している様が何ともいじらしい。しかし、この時代のフォーク・ロックを代表するアルバムである事は変わりない名作と言える。

【音盤銘盤】『ミスター・タンブリン・マン』 (Byrds) '65

"フォーク・ロック"の先駆けとなったアルバム。BeatlesBob Dylanの音楽性が見事にマッチした傑作。

The Byrds ミスター・タンブリン・マン

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久しぶりにアメリカのアーティストを取り上げる。S&G,CCRに続いて個人的に印象深いグループがByrdsである。このデビュー作"Mr. Tambourine Man"を初めて聴いたのは高校1年の頃の事である。12弦ギターの澄み切った音色とコーラスのハーモニーが極めて絶妙で、同世代のBeatles,Rolling Stonesの様なブリティッシュ勢とは異なる魅力を持ったグループであった。

Byrdsのデビュー当初のメンバーは以下の5名。

・Roger McGuinn(guitar, vocals)

・Gene Clark(rhythm guitar, tambourine, vocals)

・David Crosby(rhythm guitar, vocals)

・Chris Hillman(bass)

・Michael Clarke(drums)

このアルバムのタイトル曲もそうであるが、初期はBob Dylanのカヴァー曲を取り上げながら、当時流行していたBeatlesを始めとするブリティッシュ・ロック風のアレンジを施すタイプの演奏が中心であった。この為、「ブリティッシュ・ロックに対するアメリカの返答」と評価される事も多かったが、次第にオリジナル曲で独自の才能を開花させていく。

"Mr. Tambourine Man" Byrdsのデビュー作であり、代表曲と言える曲。オリジナルはBob Dylanの作であるが、このByrdsのアレンジはオリジナルと全く異なり、既に創造的な作風に仕上がっている。Roger McGuinnのオルゴールの様に澄んだ、高いトーンの12弦ギターとコーラスの組み合わせが秀逸な名曲。Bob Dylanの原曲とは似ても似つかぬアレンジが施されている。

"I'll Feel a Whole Lot Better" Gene Clarkオリジナル曲。当時流行であったブリティッシュ・ビートの影響を相当受けて作られたと思われる作品。ギターのスピード感と澄んだトーンの音色が心地よいオリジナル曲随一の名作。個人的にはこのアルバムで一番好き。

"Spanish Harlem Incident" これもDylanのカヴァー。RogerのヴォーカルはDylanの影響だろうか、わざと声を低く、くぐもらせる様にして歌っている。

"You Won't Have to Cry","Here Without You"  淡々と奏でられるリズムとコーラスが秀逸な小品が続く。イギリスの、殊にビートルズを始めとするリヴァプールマンチェスター系のマージー・ビートに対する憧憬が感じられる曲。

"The Bells of Rhymney" Dylanに先行して活躍したフォーク・シンガー、Pete Seegerのオリジナル。Dylan以外のフォーク曲も熱心に取り上げていたことが分かる。当時のフォークは社会を風刺をテーマにしたものが多いが、この曲もその1つである。当時の炭坑労働者をテーマに取り上げている曲。

"All I Really Want to Do" 再びDylanのカヴァーを取り上げる。このアルバムで取り上げられている12弦ギターの音色にはBeatlesも影響を受けて、George Harrisonがアルバム"Help!"の中の曲で取り入れるといった相互作用が起きている。当時の英米間でのポップス(まだロックではなく)の対抗意識を感じさせるエピソードである。

"I Knew I'd Want You" Gene Clarkのオリジナルであるが、既にDylan風のフォークを自分のものにしているのが分かる曲。Beatlesの4作目"For sale"辺りの作風にも近い。

"It's No Use" Beatlesだけではなくロンドン勢、特にKinksの影響も多分に受けていたと分かる曲がこれ。他の曲に比べてギターのエッジが鋭く、尖った装飾で響いているのが特徴的。

"Don't Doubt Yourself, Babe" 中盤からボ・ディドリー風の波打つ様なリズムが展開するユニークなナンバー。この編曲のチョイスはRolling Stonesの影響が大きいのであろう。

"Chimes of Freedom" これもDylanのカヴァー。この曲が特徴的であるが、初期のDylan曲の歌詞は難解というか抽象的で、なんだか聖書の文言を引き合いに出している印象がある。高校生の頃に初めてこの歌詞を読んだ時はなんだか小難しい人物、というのがDylanに対する認識であった。実はDylanがフォークを中心に取り上げて活動していたのは、ごく初期の頃だけで早々にロックに転向するのを後に知る事になるが、当時の高校生にはやはりDylanは親しみやすい音楽とは言えなかったのが実情である。

"We'll Meet Again" ゆったりしたフォークのカヴァーで幕を閉じる。終盤のギターにディストーションがかかってフェード・アウトする所に、サイケデリック時代への萌芽が見えて興味深い。