洋楽好きの音盤銘盤

やっぱり洋楽は60年代が格好良い

【音盤銘盤】『バードマニア』 (Byrds) '71

Byrdsの記念すべき10作目のアルバム。前作までの泥臭いトーンと一線を画す曲調が冴える一枚。

The Byrds バードマニア

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Byrdsのアルバムを紹介するのもこれで10枚目である。65年にデビューアルバムをリリースして6年余りで10作目になるので、比較的活発にレコーディングをしていたグループと言える。このアルバムは前作までのカントリー、ブルースといった泥臭いノリから一転して女性コーラスやストリングス、ピアノ演奏を全面的に押し出した華やかな出来になっている。メンバーのリーダー格であったRoger McGuinnの飽くなきチャレンジ精神がよく表れているアルバムとなっている。

"Glory, Glory" 女性コーラスとピアノが全面に押し出されたByrdsの新境地を開いた一曲。

"I Trust" Roger McGuinnのオリジナル作。従来のフォーク調のリズムに女性コーラスが重なる所が新鮮である。

"Citizen Kane" ベースのSkip Battin作曲に参加した軽快な曲。ホーンセクションの使い方が粋である。

"I Wanna Grow Up to Be a Politician" Roger作曲による当時の世相を反映した曲。音楽だけでなく、作詞のセンスもBob Dylanからの影響を受けていたのがわかる1曲。

"My Destiny" 従来のByrdsにみられたギター中心の路線とうって変わって、ピアノ主体の曲調が目立つ曲。70年に入って時代の風潮が次第にソフトなノリを求めているのを反映したとも言える。

"Jamaica Say You Will" ストリングスのゆったりと流れるメロディが心地よい逸品。

このアルバム、Byrdsの中ではそれほど目立ったアルバムではない。特に革新的な試みをした訳ではなく、むしろストリングスやピアノといった昔ながらのオーソドックスな楽器を全面に押し出しており、やや後ろ向きな印象を与えるかもしれない。十数年前にByrdsのアルバムを買い揃えて聴いていた筆者自身も、今までは余り強い印象を持っていなかった。しかし、このブログを書くにあたって聴き直してみると何だか心安らぐ感じがして非常に嬉しい気分になった。時間が経過して新しい発見が出来るのはなかなかいいものである。

それと意外な発見として、YouTubeでのライヴ演奏がこのアルバムの曲から多く取り上げられている事である。70年代に入っても精力的にライヴ活動をしていたのが分かる。

【音盤銘盤】『(タイトルのないアルバム)』 (Byrds) '70

ライヴ演奏とスタジオ・レコーディングの2枚組として当時発売。盛りだくさんな仕上がりの9作目であり、Byrds後期の傑作アルバム。

The Byrds (タイトルのないアルバム)

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60年代も後半に入ると2枚組アルバムの傑作が目立つ様になる。Beatlesの"The Beatles(通称「ホワイト・アルバム」)"、Jimi Hendrixの"Electric Ladyland"しかり、Creamの"Wheels of Fire(クリームの素晴らしき世界)"などといった大作がロック界の中心に台頭することになる。今回紹介する"(Untitled)"もこれらの傑作アルバムにひけを取らないレベルに出来上がっている。

個人的にはByrdsの中でも最高傑作に相当する作品と認識しているものであり、60年代後半〜70年代にかけてのロックミュージックの中で「もっと評価されて良い」アルバムである。

当時のメンバーは次の通り。

・Roger McGuinn - guitar, Moog synthesizer, vocals

・Clarence White - guitar, mandolin, vocals

・Skip Battin - electric bass, vocals

・Gene Parsons - drums, guitar, harmonica, vocals

<1枚目ーライヴ演奏>

"Lover of the Bayou" Roger McGuinn,Clarence Whiteの2人で奏でられるギターのアンサンブルとスピード感のあるリズムが印象的。従来のByrdsにないハード・ロック寄りの荒削りなトーンでいきなり引き込んでゆく。

"Positively 4th Street" 御馴染みBob Dylanのカヴァーである。普段のスタジオ収録と比べてスピード感がある。ギターの音色も軽やかである。

"Nashville West" "Dr. Byrds & Mr. Hyde"でも収録されたGene Parsons, Clarence Whiteによるインストゥルメンタル。ライヴという事もあり、スピード感・迫力とも格段に異なる。

"So You Want to Be a Rock 'n' Roll Star","Mr. Tambourine Man","Mr. Spaceman","Eight Miles High" 初期の傑作をたたみかけるようにして演奏されるのは圧巻。この一連のラインナップは是非アルバムを購入して聴いてほしいところ。

<2枚目ースタジオ演奏>

"Chestnut Mare" スタジオ盤1曲目。後期Byrdsの傑作とも言えるフォークロック。初期からの流れを汲む澄み切ったトーンは秀逸である。

"Truck Stop Girl" フォーク、カントリーが渾然一体となった長閑な隠れた名曲。Byrdsの創作センスのピークに達した作品。

"All the Things" Gram Personsとの共演が無ければこの手の曲は作られる事は無かったであろう名作。

"Yesterday's Train" 夕暮れ時を思わせる茫洋とした曲調が印象的。ヴォーカルのGene Parsons(もしくはSkip Battinか)の哀愁のある歌い方も切なくて良い。

"Just a Season" Roger McGuinn作の小品。細やかなトーンのギターの音色はライヴと極めて対照的である。

このアルバム、1枚目のライヴ盤は当時流行のハードロック・R&Bの影響を受けたハードでアップテンポな曲調に仕上がっているのと対照的に、2枚目のスタジオ収録はフォーク・カントリーといった内省的なトーンの曲が集まっている。ライヴに初期のヒット曲を多く取り入れたり、スタジオ盤ではRoger以外のメンバーにヴォーカルと任せたりと飽きさせない工夫を凝らしているのが分かる。

このアルバムが発表された1970年はBeatlesが解散、Rolling Stonesがメンバーチェンジやら移籍問題のゴタゴタ等でロック界全体が慌ただしい年であった所為もあり、腰を据えて音楽そのものに向かい合うにはあまり良い年ではなかったのかもしれない。それ故に様々な話題に埋もれてしまった感のある惜しい一枚である。

【音盤銘盤】『イージー・ライダー』 (Byrds) '69

60年代終盤を代表する映画『イージー・ライダー』の主題歌を収録した後期Byrdsの代表作。郷愁を誘う雰囲気の曲が多い。

The Byrds イージー・ライダー

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Byrdsのアルバムを紹介するのもこれで8枚目である。このアルバムは同名タイトルの映画『イージー・ライダー』のテーマ曲が収録されている事で有名な作品。『イージー・ライダー』の曲というと一般的にはSteppenwolfの"Born to Be Wild(ワイルドでいこう!)"の方が有名かもしれないが、このアルバムに収録されている"Ballad of Easy Rider"が主題歌である。

他の収録曲を含めてフォーク、カントリー、R&Bといった旧き良きアメリカの音楽の集大成といった雰囲気で、聴いていて心が和む曲が多い。

"Ballad of Easy Rider" Roger McGuinnのオリジナル

"Fido" John Yorkの作。ドラムソロをフィーチャーしている所が珍しい。

"Oil in My Lamp" Gene Parsons, Clarence Whiteのアレンジが秀逸な作品。

"It's All Over Now, Baby Blue" Bob Dylanカヴァーはこのアルバムでも欠かせない。

"Deportee” ByrdsやBobDylanの先輩格にあたるフォークの大御所Woody Guthrieのカヴァー

Steppenwolfの"Born to Be Wild(ワイルドでいこう!)"も取り上げてみる。これも映画『イージー・ライダー』の代表曲。

【音盤銘盤】『バーズ博士とハイド氏』 (Byrds) '69

メンバーチェンジが進んで新たなラインナップとなったByrds後期の佳作。カントリー、R&B等、様々なバックグラウンドの要素を盛り込んだアルバム。

The Byrds バーズ博士とハイド氏

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Byrdsがリリースしたオリジナルアルバムは11枚。この"Dr. Byrds & Mr. Hyde"で7枚目であるので、キャリアとして丁度折り返し地点を過ぎた辺りとなる。

このアルバム収録当時のメンバーは以下の通り。

・Roger McGuinn - guitar, lead vocals

・Clarence White - guitar, backing vocals

・John York - electric bass, backing vocals

・Gene Parsons - drums, harmonica, banjo, backing vocals

前作で多大な貢献をしたGram Parsonsは本作を待たずにあっさりと脱退、デビュー当初からのメンバーであったChris Hillmanもとうとう辞めてしまう。これでオリジナル・メンバーはRoger McGuinnのみとなってしまい、新たなメンバーを加入して新生バーズとしてこのアルバムを出す事になる。

アルバム全体の曲調は、前作"Sweetheart of the Rodeo"のカントリーミュージック流れを残しているものの、新メンバーClarence Whiteのギターを全面に出しているせいかR&B、ハードロックの影響も色濃く出ているのが特徴的。

全体的に地味な印象がある様で、数あるByrdsのアルバムの中でもあまり注目される事は無い。個人的にもこのアルバムを聴いた当初は重苦しいトーンでByrdsらしくない印象を持っていたが、当時のライヴ盤を聴く様になると、このアルバムで取り上げられている"This Wheel's on Fire"、"Nashville West"、"Old Blue"が巧みなアレンジで演奏されていることが分かり、評価が一変した。スタジオ収録の本作と比べて、アップテンポで軽快な仕上がりになっているのには驚いた。

"This Wheel's on Fire" Bob DylanのカヴァーはByrdsのお家芸とも言える域に達している。ハードロックの時代を反映してファズトーンの聴いたギターが渋くて格好よい。

"Old Blue" 前作までの流れを汲むカントリーのtraditional曲。Rogerのアレンジ力が優れている。

"Your Gentle Way of Loving Me" これはカントリーのカヴァー。ブルースハープと細くて高いトーンのギターが心地よい。Stonesの"Sticky fingers"辺りへの影響も大きいと思われる。

"Nashville West” 新メンバーClarence White、Gene Parsonsによるインストゥルメンタル。ライヴでは軽快かつスピード感溢れる仕上がりに変貌している。

"Drug Store Truck Drivin' Man" Roger McGuinnと前作1枚で脱退したGram Parsonsの共作。Gram Parsonsの置き土産の様な作品である。

【音盤銘盤】『ロデオの恋人』 (Byrds) '68

Byrdsがグラム・パーソンズを招いて全編カントリー・ミュージックで通した挑戦的な名作。

The Byrds ロデオの恋人

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4thアルバム"昨日より若く"、5thアルバム"名うてのバード兄弟"辺りからByrdsのカントリー・ミュージックへの傾倒は目立ち始めていたが、このロデオの恋人(Sweetheart of the Rodeo)ではカントリー・ミュージックを出自とするミュージシャンが加入して本格的なカントリー・ロックを発表する事になる。

当時のメンバーは以下の通り。

・Roger McGuinn - acoustic guitar, banjo, vocals

・Chris Hillman - electric bass, mandolin, acoustic guitar, vocals

Gram Parsons - acoustic guitar, piano, organ, vocals

・Kevin Kelley - drums

このアルバムに絶大な影響力を持ったのはGram Parsonsである。彼によって本格的なカントリー・ミュージックの素養を取り入れる事が出来、後の"カントリー・ロック"の先駆けとなったと言っても良い。カントリー・ミュージックの本場であるナッシュビルで録音が行われたりと、メンバーの入れ込み方も特別なものであった。

当時の流行を振り返ってみた時に、サイケデリック・ムーブメントが一段落し、ZepplinやDeep Purpleのようなハード・ロックが盛り上がる前の時期であったので、何か新しいジャンルを開拓しようとする意識が高かったのかもしれない。

21世紀となった現代に聴いてみると、どの曲ものどかで田舎道をドライブする時にピッタリの物が多いので違和感を感じないが、カントリー・ミュージックという日本で言うところの"演歌"とか"民謡"のようなジャンルに進出したのは当時としては極めて意外だったのではなかろうか?

この辺りの発想はリーダー格のRoger McGuinnに拠る所が大きいと思うのだが、革新的なのか保守的なのかよく分からない点が何とも興味深い。もとい、本当に優れた人は古い・新しいに関係なく良い物は柔軟に取り入れる事ができるということなのかもしれぬ。

"You Ain't Goin' Nowhere" Bob Dylanのカヴァーはカントリーでも欠かせない。

"Hickory Wind" Gram Parsonsの作

"One Hundred Years from Now" こちらもGram Parsonsの名作

Gram ParsonsのByrds加入以前に在籍していたInternational submaline band時代の音源や、彼がリード・ヴォーカルをとった別バージョンも収録のレガシー・エディションも興味のある方はどうぞ。

The Byrds ロデオの恋人(レガシー・エディション)